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杏樹が慌てて返信する。手が震えて上手く打てない。
『まさか! 本気で好きです! ホントに行っていいの?』
『もちろん! いつ頃来れる? バレンタインは? チョコレート、期待していい?』
それから先はフワフワとして、完全に浮足立っていた。
監護者である祖母から、パリへの一人旅の許しを得るのが一番の難関であった。杏樹に甘い祖母が、孫娘の語学力を最後まで心配して、一緒に行くとまで言い出しのには焦った。
「本当にやめて! 一人で大丈夫だったら!」
――初恋の成就がかかってるのに、祖母同伴なんてありえない。
新調のグローブトロッターのスーツケースに、夢と希望と、吟味に吟味を重ねたバレンタインの高級チョコを詰め込んで、一人、シャルル・ド・ゴール空港に降り立ったのは、二月の十二日。機材の遅れと霧の影響で、飛行機は数時間遅れで到着。入国審査を終えた時には、すでに深夜を回っていた。
到着を知らせようと空港のWiFiに接続して、アプリで健司に電話した。
だが、健司は出ない。
恋の熱に浮かされていた杏樹の心に、すっと冷たい風が通り抜けた。
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