10、バレンタイン・ディナー

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 フランス人のウェイターがコートを預かる。杏樹がマスタードイエローのダッフルコートを脱ぐと、ワインカラーのニットの腕に、桜井の腕時計が店の明かりに鈍く光る。日本人のチーフは席へ案内しながらも、目ざとくその時計をチェックする。 「日本人シェフのお店と聞いたけど、お客はフランスの人が多いみたいですね?」  チーフが椅子を引いてくれて、杏樹が腰を下ろし、桜井は自分で椅子を引いて座った。   「おかげさまで、八割がたは現地の人ですね」 「へえ……」  杏樹が洒落た内装を見回していると、まずはワインリストを渡される。 「コースはシェフのお任せのみとなっておりまして、本日はトリュフ尽くしコースです」    憧れのトリュフと聞いて、杏樹の目がきらんと光る。 「聞くだけで美味しそう!」      はしゃぐ杏樹の横で、桜井はワインリストを真剣に眺める。   「トリュフ……赤? でも杏樹は赤飲めるんか? 飲みやすさを考えたら、白かな?」  ソムリエも兼ねるチーフが助け舟を出す。
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