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「おすすめは……白でしたらこのあたり、ブルゴーニュのシャルドネ、2003年のものですね。かなり熟成が進んでいて、トリュフに負けないかと。……あとは、アルザスのリースリング、1990年のものも、芳醇な森の香りが期待できます」
「リースリングも好きやけど、その古さのは味の想像がつかへんわ……。サン・トーバンのシャルドネなら間違いないかな?……ほな、シャルドネを」
「畏まりました」
チーフがワインリストを持ってにこやかに下がると、杏樹が腕時計を指して言った。
「あ、これお返ししないと。ありがとうございました」
「ああ、ええよ。しばらく持っとき」
「でもお高いんでしょ? 家が一軒建つって健司が――」
桜井が眼鏡の奥の目を一瞬、眇めた。
「ケンジって……ああ、あのアホの彼氏、会うたん?」
「偶然、凱旋門の下で鉢合わせて……もう顔も見たくないから速攻で走って逃げようとしたけど、時計を見られちゃったんです」
「へえ……なんか言うてた?」
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