10、バレンタイン・ディナー

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「おすすめは……白でしたらこのあたり、ブルゴーニュのシャルドネ、2003年のものですね。かなり熟成が進んでいて、トリュフに負けないかと。……あとは、アルザスのリースリング、1990年のものも、芳醇な森の香りが期待できます」 「リースリングも好きやけど、その古さのは味の想像がつかへんわ……。サン・トーバンのシャルドネなら間違いないかな?……ほな、シャルドネを」 「畏まりました」  チーフがワインリストを持ってにこやかに下がると、杏樹が腕時計を指して言った。 「あ、これお返ししないと。ありがとうございました」 「ああ、ええよ。しばらく持っとき」 「でもお高いんでしょ? 家が一軒建つって健司が――」  桜井が眼鏡の奥の目を一瞬、眇めた。 「ケンジって……ああ、あのアホの彼氏、()うたん?」 「偶然、凱旋門の下で鉢合わせて……もう顔も見たくないから速攻で走って逃げようとしたけど、時計を見られちゃったんです」 「へえ……なんか言うてた?」
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