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「その時計はどうしたの? って言うから、スマホの電源入れたくないから借りてる、って言ったら、世界三大高級時計がどうたらこうたら言って。成金のオッサンに捕まってるのかって失礼なこと言うから、つい、『オッサンじゃない!』って言っちゃいました」
桜井がぶっと噴いたところで、チーフがワインを運んできた。慣れた手つきで抜栓し、桜井も当たり前のようにテイスティングする。
「あ……これ、美味い」
「問題ないようでしたら、お注ぎしますね?」
チーフがグラス二つに注ぎ、氷水をたっぷり入れた、ワインクーラーに入れて離れる。グラスを互いに持ち上げ、
「じゃあ、オッサンじゃない僕に!」
「乾杯!」
店の雰囲気をおもんぱかり、グラスをぶつけずに乾杯する。一口飲んで、杏樹が思わず口もとに手をやる。
「美味しい!」
「シャルドネも熟成するとこんな深い味になるんやね……」
「桜井さん、ワインも詳しいんですね? わたし、さっきの説明、全然、チンプンカンプンだったのに」
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