10、バレンタイン・ディナー

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 チーフは杏樹の左腕に光る男物の腕輪が、本物の超高級スイス製時計と確信する。女性は旅先のことで他にたいしたアクセサリーもつけていないが、コートはイギリスの有名ブランド。男性のコートはイタリア製のカシミアで、スーツは間違いなくフルオーダー。時計も男性が貸しているのだろう。――職業柄、持ち物や服装で客の懐具合を測るのは習慣化している。もう少し高いワインを薦めてもよかったが、女性の若さを思えば妥当な線だろう。  アントレ(前菜)はフォアグラとトリュフのブリュレ。耐熱容器に入れ、バーナーでこんがり焼き色を付けられたそれは、一口食べれば、口の中にフォアグラとトリュフの濃厚な香りが広がり、熟成されたシャルドネとの相性もばっちり。 「お菓子みたいな見てくれやけど、ちゃんとワインに合うのすごいな」  パンは松の実入りのブリオッシュで、トリュフのポタージュとともに供される。 「パンも美味しい! でも食べ過ぎるとお腹いっぱいになっちゃうから我慢」 「それよりワイン飲みすぎんようにな」
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