10、バレンタイン・ディナー

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「昨日は特別です。日本から十時間以上のフライトで、しかも飛行機遅延して、深夜に空港に着いたんです。そんな時間に動くのも怖くて、空港のベンチで夜明かししたから寝不足で。時差ぼけもあってフラフラでした。昨日しっかり寝たから、今日は大丈夫ですよ」  口を尖らす杏樹に、しかし桜井はペリエを注文し、杏樹のワイングラスは取り上げられる。  続くポワソン(魚料理)は、白いお皿に丸いコロッケのようなものが一つ。 「キャビア入りのクロケット、トリュフマスタード添えでございます」 「キャビア! これで三大珍味全制覇ですね!」 「この店の看板料理で、白身魚でキャビアを巻いて、揚げてあります。どうぞご賞味ください」  チーフが説明し、店の奥の厨房からは、まだ若いシェフが反応を気にするように覗き込んでいる。  ナイフを入れれば、丸い断面に黒いキャビアがぎっしり詰まっていて、まさしく黒い宝石。 「こういう食べ方は初めてや」 「わたしも、パンに乗っけてよく食べるけど。おばあちゃまが好きなんです」      贅沢なコロッケを満喫すれば、お次のヴィヤンドウ(肉料理)は――
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