10、バレンタイン・ディナー

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「子羊のロティ、ソースペリグー添えでございます」          オーブンをつかって高温で焼き上げたジューシーな子羊肉に、マデラ酒と黒トリュフを使う伝統的なソースを合わせたもの。 「美味しい~。お肉ほんと美味しい! わたし、さっきから美味しいしか言ってなくて語彙力なくて恥ずかしい!」 「人間、美味いものを前にすると語彙力を失くすものや。……ホラ、蟹無口とか言うやろ」     メインの後はフロマージュ(チーズの盛り合わせ)と、デザートはアミューズにそっくりな、カスタードに削られたチョコレートが散らされたものと、トリュフチョコ。 「あ、こっちのトリュフ!」    シェフの遊び心にくすっと笑ってしまう。食後のコーヒーまで堪能していると、シェフが挨拶に出てきた。 「ごちそうさまでした! すっごく美味しかったです!」 「ありがとうございます。パリには観光に?」 「僕はそこの、極東学院まで学会に」  会計の時に、普段、マネークリップでユーロ札をまとめている桜井が、珍しく財布を取り出した。  バリバリッ
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