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「僕の研究分野は中世の中国やで? 会話はそこまで得意ではないけど……」
「もしかして、とんでもないエリート……?」
「年収240万で、四月から無職のエリートがどこにおんねん」
エレベーターの中でそんな話をして、チン、と四階について扉が開く。
この廊下をあと数歩で部屋に――
(もしかして、桜井さんも期待してるのかな? わ、わたしはその、初めてをあげるのはやぶさかじゃないけど。でも、その場合はどう振る舞うべき? どうしよう、どうしよう……)
意識し始めると、手足の動かし方さえわからなくなり、右手と右足が一緒に出てしまいそうになる。当然、ふらついてバランスを崩し、桜井が慌てて抱き留めて支える。
「杏樹? もしかして今夜も酔った?」
「ち、違います! 酔ってない! 酔ってないです!」
「でも、えらい顔も赤いし……」
「こ、これは! 酔ったわけじゃなくて!」
必死に否定するが、桜井は冷淡に指摘する。
「酔ってへん、言い出した人間は、たいてい酔っぱらってる。間違いない」
「違います! 顔が赤いのは、さ、さ、桜井さんが……好きだからです!」
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