1、最悪のバレンタイン

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 ――今日、行くって約束してた。たしかに、飛行機は遅れたけど――  巨大国際空港も、深夜は人もまばらで閑散としている。空港内の電光掲示板も、空港内のアナウンスも当たり前だがフランス語で、杏樹の語学力ではほぼ理解できない。祖母の言うとおり、もっとフランス語勉強してくるべきだった――  結局、健司と連絡がつかず、杏樹は空港内のベンチで夜を明かした。  いつまでも空港に居座るわけにもいかない。  杏樹は空港内のバーガーショップで朝食を済ませ、健司の住所メモを頼りに、空港から市内へのバスに乗った。  二月のパリは日の出が遅い。ようやく明けてきた薄暗いパリの十六区、住所メモを片手に重いスーツケースを引きずって、健司のアパルトマンを探し当てるのに、一時間以上かかってしまった。  築百年は超えているだろう、オスマン様式のアパルトマンの五階まで、年代物のエレベーターは杏樹とスーツケースとでいっぱいいっぱいの狭さ。ゆっくり上っていく間も心臓はバクバク波打っていた。
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