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「ごめん、何からしたらいいのか、わからん……まずこの時計外しとくな」
杏樹の腕から腕時計を外され、すっと腕が軽くなる。それをベッドサイドのチェストに置き、桜井はついでに、ポケットのスマホやユーロ札を取り出して置き、再び杏樹に向き合った。整った顔には不安そうな表情が浮かんでいる。
「ほんまに、僕なんかが処女もろてしもうてええん? もっとこう……世の中にはいい男がいっぱいいてるし、なにせこの歳まで童貞やから、おそらく下手くそやで?」
「そんなの、大丈夫です。……助けてくれたのもあるけど、桜井さんが、好き、だから……」
恥ずかしくなって俯き、上目遣いに言えば、桜井が一瞬、気の遠くなるような目をした。
「その顔でそんなこと言われたら……破壊力が高すぎるやろ……」
「え?」
桜井の大きな手が杏樹の頬を両手で覆って、おそろしく整った美貌が目の前に迫り、唇に唇が軽く触れる。杏樹の心臓が大きく跳ね、呼吸が止まる。十数秒、そのままでいたが、お互いほぼ同時に唇を離し、ぷはーっと息をついた。
「苦しっ」
「息でけへん!」
二人ともすーはー息を整えながら善後策を考える。
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