2.二日酔い

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2.二日酔い

 なんだか暑い。  寝汗までかいてる。  8月も終わりだというのに、真夏の盛りのような猛暑で熱帯夜が続いていた。  睡眠に適した温度設定にしていても、寝苦しさから無意識に温度を下げることがある。なのに、間違えて高くしたのかもしれない。ナイトテーブルのリモコンを見たら、案の定、温度がおかしかった。  28度!?   適温のうちだとは思うが、こんな温度にした覚えがない。  ふはぁ、だるい。  由利は水を飲むためにもぞもぞと起き上がった。ヨーグルトに頭を打ち付けてかち割りたい気分だ。  いったい、どれだけ飲めばこんな体たらくになる?   裸で眠る習慣はないが、うわっ、全裸だった。衣類をどこで脱ぎ捨てたのか、ベッド付近には衣類がない。  ん、昨夜はどんな恰好だったか。  国際会議に出席したからシャツ&ジャケットだった。リモートで参加したかったが、叶わなかったのだ。  着ていたシャツは祖父の代から懇意にするテーラード店で仕立てているものだ。最近何枚か新調し、昨日はパイピングを施したドレスシャツを着ていた。  泥酔してバスルームで脱いだんだろうか?  さっぱりしている感じからして、シャワーを浴びたようだが。  頭痛はそこそこある。アルコールのせいで血管が拡張されて片頭痛が引き起こされているのだろう。加えて脱水症状もある。髄液中に浮いている脳味噌は容積が減ってアンバランスに違いない。無駄に脳細胞を死滅させてしまった。  ガウンを引っかけて、寝室を出た。リビングを抜けてシステムキッチンに行く。  間取りは2LDKで、一人暮らしなら充分の広さがある。大量の書籍を置くためだが未だ荷ほどきをしていない。  キッチンの棚からL―システインとビタミン剤の瓶を取り出して、ミネラルウォーターで一粒ずつ飲む。  それから蜂蜜瓶とスプーンとマグカップを用意する。電気ケトルをセットしたところで力尽きた。  リビングの真っ白なカウチに移動した。  部屋の明かりは点けなかった。眩しくて余計に頭が疼くだろうから暗いほうがいい。  カウチは大柄な男性でも足を伸ばせる大きなL字型に置かれている。  ごろんと転がって、猫のように丸くなると、居心地もいい。最高だ。  酷い頭痛に耐えながら溜息を吐き、カウチに身を沈めきったときだった。  由利の目が何かを捉えて硬直した。目のレンズははっきりとその輪郭を捉えていたし、アルコール漬けの脳味噌もその物体が何であるか認識していたが、思考が凍結した。   男が!  知らない男が、カウチに横になっている。
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