四章

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 僕は覚悟を決めて、思った言葉を口に出す。 「……答えは変わりません。僕は和樹も、雫さんもどちらも大事です。かけがえのない存在です。一方を選ぶという選択肢は、ありません」  電話先は無言が続いている。怒らせてしまったかと内心ビクビクしていたが、しばらくして『そうですか』と返事が来た。 『すみません、何度も同じ質問ばかり』 「い、いえ、謝らないで下さい。ハッキリさせない自分が悪いわけで雫さんは何も」 『獅波くんに関しては、こちらでも何か分かり次第すぐにお伝えしますので。勿論、お母様の件も』 「あ、ありがとうございます」 『それと大事な要件が』 「え?! な、なんでしょうか……?」 『明日の朝も一緒に登校していただけるのでしょうか。可能であれば迎えに参ります』 「そ、それは勿論……! ですがいいんですか? わざわざ来てもらって……」 『こちらがそうしたいだけですので。それでは明朝、御自宅へ向かわせていただきます』 「ありがとうございます、待ってます」  ここで電話が切れる流れかなと思い、黙って待ってみるが切断されない。どうしたのかなと不思議に思っていると唐突に『伊織くん』と呼ばれる。 『おやすみなさい』  僕の返事を待たず、通話終了。なんだがモヤモヤした気持ちを残しながら、ふぅと溜まった息を吐く。雫さんとの会話は毎度緊張してしまう。恋人としてどうなのかと思うが、してしまうものは仕方ない。いつか回数を重ねれば慣れるのだろうか。  汗をかいたのでシャワーを浴びようと脱衣場へ向かってる最中、混沌が話しかけてきた。  ――果たして正しい解答など用意されていたのかどうか。  意味の分からない事を言い出す。けれど厨二病をこじらせた僕が生み出した存在である。気にするだけ時間の無駄というもの。  とりあえず今は和樹と母さんの無事を祈るだけ。  ……そんな些細な願いを翌日、僕は。  最悪の形で裏切られてしまう。
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