29人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は覚悟を決めて、思った言葉を口に出す。
「……答えは変わりません。僕は和樹も、雫さんもどちらも大事です。かけがえのない存在です。一方を選ぶという選択肢は、ありません」
電話先は無言が続いている。怒らせてしまったかと内心ビクビクしていたが、しばらくして『そうですか』と返事が来た。
『すみません、何度も同じ質問ばかり』
「い、いえ、謝らないで下さい。ハッキリさせない自分が悪いわけで雫さんは何も」
『獅波くんに関しては、こちらでも何か分かり次第すぐにお伝えしますので。勿論、お母様の件も』
「あ、ありがとうございます」
『それと大事な要件が』
「え?! な、なんでしょうか……?」
『明日の朝も一緒に登校していただけるのでしょうか。可能であれば迎えに参ります』
「そ、それは勿論……! ですがいいんですか? わざわざ来てもらって……」
『こちらがそうしたいだけですので。それでは明朝、御自宅へ向かわせていただきます』
「ありがとうございます、待ってます」
ここで電話が切れる流れかなと思い、黙って待ってみるが切断されない。どうしたのかなと不思議に思っていると唐突に『伊織くん』と呼ばれる。
『おやすみなさい』
僕の返事を待たず、通話終了。なんだがモヤモヤした気持ちを残しながら、ふぅと溜まった息を吐く。雫さんとの会話は毎度緊張してしまう。恋人としてどうなのかと思うが、してしまうものは仕方ない。いつか回数を重ねれば慣れるのだろうか。
汗をかいたのでシャワーを浴びようと脱衣場へ向かってる最中、混沌が話しかけてきた。
――果たして正しい解答など用意されていたのかどうか。
意味の分からない事を言い出す。けれど厨二病をこじらせた僕が生み出した存在である。気にするだけ時間の無駄というもの。
とりあえず今は和樹と母さんの無事を祈るだけ。
……そんな些細な願いを翌日、僕は。
最悪の形で裏切られてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!