五章

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 ……しば、かずき……? 僕の知っている、あの、和樹? 同姓同名という可能性はありえないのだろうか。自殺? 和樹が……え?  ガクガクと膝の上に置いた手が震え始める。急に視界が狭くなって、雫さんの声も聞き取れない。一体どうしたというのだろう。僕は……壊れたのか?  そんな時、温かい感触が広がる。暗い世界、朧げに見える白くて長い指。雫さんが、僕の手を握ってくれているのだとようやく認識する。  ゆっくりと頭を動かすと、こちらを見ている雫さんの顔があった。いつもより少し眉の角度を下げ、潤んだ瞳で優しく語りかけてくる。 「…………大丈夫ですか?」  その一言で、僕は元の世界へ戻ってこれた。身体の震えは若干残っているけれど、視界は広がり音を披露宴事も出来る。呼吸を整えながら自分に向かって喝を入れた。 「……大丈夫です」  何が起こったのか、詳しい話を聞かなければいけない。だがその前に、今の段階でハッキリと言える事がある。  和樹は、自殺なんてする人じゃない。彼は、何者かの手によって……殺されたんだ。
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