一章

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 その後、二限目までに用意した弁当を食べ終えた和樹は、昼休憩と同時に教室を飛び出す。 「伊織、急げ! A定食は待ってくれねぇぞ!」  先程から連呼しているA定食とは、この学校で一番人気のある日替わり定食だ。B定食と値段は同じものの、品数とカロリーが全然違う。言うならばAはガッツリ男子生徒向け、Bはヘルシーな女子生徒向けといった感じか。  どうしても男子生徒の割合が多いせいで、A定食は開始十分で大体売り切れる。三年生の中でも一度として食べた事のない者もいた。体育館と学食の距離が近いのも理由の一つだろう。  そんな事もあり、常にA定食を狙う者は瞬発力を試される。教師に見つからないよう廊下を走り、無駄のない動きで食券を買う技術が必要なのだ。  和樹の後を追って、僕も廊下に出る。これでも急いでいるつもりだが、既に和樹の姿は見えない。  足の速さで太刀打ち出来ないのは分かり切っている。ならば知恵を使うしかない。僕は事前に胸ポケットへ小銭を用意していた。学食にさえ辿り着ければ、ほぼノータイムで食券購入まで進められる。  学食まで最後のコーナーを越えるだけという時、アクシデントが起こった。  なんと曲がった先に人が立っており、発見に遅れた僕は無様に転倒してしまう。
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