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「そんなに、大事なものなんですか?」
「えぇ、プレゼントでもらったものだから、一生の宝物なの。
使わずにしまっておくべきだったのかもね」
まだまだ子供の僕に、この人がどんな年月を過ごしてきたのか......。
それをわかりきることはできないけど。
だけど、あまりにも寂しそうな顔をみていたら、このままには
しておけない衝動が込み上げてきた。
「おばあちゃん、それまだ使えますよ!ちょっと貸して」
すでに涙を浮かべていた彼女が驚きながらもバッグを渡してくれた。
僕は商店街の通行人の妨げにならないように店と店の間の隙間の道に
入り、彼女もそこへと移動してきた。
そして彼女のバッグの中に、僕の布バッグをまるごと入れてみたら
上手い具合いに元のバッグの中にすっぽりとおさまった。
「ね、こうして重ねたままにしてたら、ずっと使えます。
むしろもっと丈夫になりましたよ、ほらっ!」
「そんな......だって、あなたのバッグをいただくなんて」
「いいんですよ、安いバッグは適当にすぐ買えます。
でも、おばあちゃんのそれは、買い換えたりできないものでしょ?」
「ありがとう、ありがとう......。
ほんとうに......ありがとうございます!」
彼女が泣き出してしまったので、僕は良いことができたというより
どう対処したらいいのかわからず困惑した。
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