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「相原君!相原君てばっ!!」
「!」
名前を呼ばれて、窓の外を見ていた彼…相原は瞬く。
声のした方を見つめると、クラス委員長の桶本(おけもと)がいた。
「なんね委員長。そないがならんでも、聞こえとるわ。」
「じゃあ、さっさと進路調査票…出してよ。相原君だけよ?もう出してないの。先生に早くしろって言われるの私なんだから、迷惑なの!早く!!」
「進路調査…なぁ〜」
呟き、机の中でくしゃくしゃになっていたそれを見つめる。
「高校2年の冬なのよ。隣のクラスの楢山さんなんて、もう大学入ってからの勉強までしてるのよ?そんなに悠長に構えてて良い時期じゃないのよ?相原君、楢山さんと1、2を争う学年トップじゃない。なにをそんなに迷ってるのよ…」
「別にぃ?こないなつまらん世界の成績なんて、社会出ても何も役立たんわ。せやったら、もっと楽しことして、短い10代、謳歌したいわ。」
言って、相原は席を立ち、カバンを取って教室を後にする。
「ちょっ、相原君!まだ授業…」
「腹痛いから早退。進路調査は、明日まで待っとって。ほな。」
「相原君!!」
止める桶本を振り切り、相原は教室を後にする。
「また相原早退?最近多いよね。午後のこの時間。」
「余裕だよなぁ。あれで生徒会長の楢山と並ぶ学年首位クラスだぜ?羨ましいったらありゃしない。」
「先生達も相原には甘いし、やっぱ頭良い奴は特別扱いかよ。面白くねーの。」
「委員長、たまにはビシッと言ってやってくれよー。」
「あ…うん…」
クラスメイト達の言葉に頷きながら、桶本は手にしていた進路調査票を、キュッと握り締めた。
*
「つまらん日常や…せやけど…この時間だけは、特別や。」
バスを降り、駅前の商店街に真っ直ぐ向かうと、直ぐそこの八百屋の前で彼女の姿を見つけたので、相原は頬を上気させ駆け寄る。
「絢音さん!!」
「あら、藤司(とうじ)君じゃない。こんにちは。もう学校終わる時間?」
「うん!試験期間やから、早いねん。今日もすごい荷物やね。持つわ!!」
「良いわよ!軽いものじゃないんだから…」
「遠慮しなや!ワシらの仲やろ?ほら、貸して!!」
言って、相原…藤司は絢音から荷物を引ったくり、両手に抱える。
毎日、彼女…絢音を初めてみた長屋辺りをウロウロして掴んだ情報。
3日に一回の割合で、15時頃になると、彼女が商店街に買い物に行く事を知った藤司は、偶然を装い、絢音に接触。
以来、様々な理由をつけてはこの時間に商店街へ行き、憧れの…初めて好きと思えた彼女に、会いに行っていた。
「絢音さんて、ホンマに料理好きなんやな。得意料理とか、あらへんの?」
商店街からの帰り道。
荷物の中身が殆ど食材だったので聞いてみると、絢音は首を傾げ思案した後応える。
「そうね…強いて言うなら、唐揚げかしら。よく食べてくれるから。」
「へぇ。唐揚げ。ええなぁ〜。ワシのウチ父子家庭やさかい、飯いつもコンビニやから、手作りとか、めっちゃ憧れる。」
「まあそうなの?お母様は?」
問う絢音に、藤司は複雑そうに笑う。
「4年前に、ひき逃げに合うて、死んでしまいました。せやけど、担当してくれた刑事さんや…誰やったかな。その上の人が、裁判でしっかり働いてくれて、相応の償いしてもろたから、ワシも親父も、その人に感謝しとんや。」
「そうなの…ごめんなさいね。辛いこと聞いちゃって…」
「ええんや。さっきも言うたけど、裁判で偉い人が、しっかり罪認めて反省せいて、キツう言うてくれて、徹底的に追求してもらったから、ホンマに、すっきりしたんや。ケンサツカン?やったかな?その人。ワシもあーゆー仕事したい思てんけど、なり方とか、よう分からんし…」
「あら…それって検察官?それなら丁度、ウチに良いものあるわよ?」
「えっ!?」
瞬く藤司に、絢音はニコリと笑ってみせる。
「荷物持ってくれたお礼、ウチいらっしゃい。見せてあげる。」
「う、うん…」
何故彼女が…そんな疑問を抱きながらも、初めて絢音の家に上がれると言う嬉しさが勝り、彼女と肩を並べて、家路についた。
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