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「おかわり!」
「ちょっと食べすぎだよ藤次。ウチの米食い尽くす気?」
「喧しいわ。さっさと寄越せ!!」
「もー」
夜。京都郊外にある真嗣のマンション。
昨日から泊めてくれとやってきた親友が、何やら妙にカリカリしてるので、真嗣はため息混じりに彼に問う。
「一体何だよ。急に来たかと思えば終始仏頂面か調べ物ばかり。見るつもりなかったけど、パソコンの検索履歴みたらセンター入試って、大学にでも入り直すの?それで絢音さんと喧嘩したの?」
「別に。絢音とは頗る良好や!!ただ…」
「ただ?なんだよ。話して楽になるなら、言えよ。親友だろ?」
その言葉に、藤次は暫く思案を巡らせた後、徐に口を開く。
「…………お前、初恋いつやった?」
「えっ?!」
急に聞かれて真っ赤になったが、首を捻った後、冷や汗混じりに口を開く。
「怒らない?」
「なんね?聞いたんワシや。怒るかい。」
バリバリと沢庵をかじる藤次に、真嗣は気まずそうに口を開く。
「大学の時かな。相手は……君だよ。」
「はあ?!」
声を上げる藤次に、真嗣は彼が吐き出したご飯粒を避けながら苦笑いを浮かべる。
「藤次気にも留めてなかっただろうけど、僕ら大学同じで、既に会ってたんだよ…」
「そんなん…知らんかった…大学かて、同じや言うの聞いたん初めてやわ。」
「まあ、藤次とは学科違ったし、通ってた棟も違ったから、無理ないと言えば無理ないけどさ。……で?初恋が、どうかしたの?」
その問いに、藤次は食器を置き、俯く。
「…ワシは、初恋らしい初恋、したことないねん。本気で誰かを好きになるって感情…絢音に会うまで、知らんかってん。せやから、アイツがちょっと…羨ましい…せやから、応援してやりとうて…」
「アイツって?」
「S高の3年。一年ちょっと前にウチに押しかけてきよって、絢音を好きやとほざきよった。アホかと怒鳴りつけてやったんやけど、アイツ怯むどころか、ワシの前で絢音にプロポーズしよった。挙句検察入りたい言い出して、散々脅したったんやけど、なりたい言うから、せやから、なんか…ほっとけんなって…」
「S高って、超のつく進学校じゃん。あれ?確か藤次も…」
「せや。どう言う縁か、後輩や。せやから余計に親近感持ってもうて…そんで、センター試験終わるまで、絢音とあの長屋に2人きりにさせとんねん。一緒にならせてやれん代わりに、思い出作り…させたろ思うて…ホンマは、悋気でどないかなりそうなんやけど、あない真剣に惚れるとる気持ちを、簡単に忘れさす言うんも、酷やし…せやけど…」
堂々巡りの言葉を紡ぐ藤次に、真嗣はため息をつき台所に向かうと、ありったけの缶ビールを持って来て、テーブルにぶち撒ける。
「真嗣…」
「飲めよ。藤次ほど飲めないけど、付き合うから。それに…」
「それに?」
問う彼に、真嗣はニコリと笑う。
「藤次のそう言う優しいとこ、好きだよ。」
「アホか…お前に言われても、嬉しくも何ともないわ。」
「棘あるな〜。折角、慰めてあげてるのにぃ。」
言って大袈裟に溜め息をつく真嗣に、藤次はフッと吹き出す。
「冗談や。話…聞いてくれておおきに。少し、楽になった…」
「…そうやって、最初から素直になれば良いんだよ。はい。」
「ん。」
渡されたビール缶を受け取り、蓋を開け、藤次は徐にそれを真嗣に向ける。
「なに?」
「いや。乾杯しよ思て。」
「なにに?」
問う彼に、藤次は笑う。
「切ない青春の1ページに…かのぅ…」
その言葉に、真嗣も笑い、2人はビール缶をカンと合わせて、1人の少年の苦しいまでの恋心に、思いを馳せた。
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