鳥居の先

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鳥居の先

「あの山の滝の上の鳥居はね、いつ誰がどのように建てたのか分からないの。だからみんなは勝手に桃源郷なんて呼んでるのよ」 「山頂には行けないの?」 「誰も行ったことは無いそうよ。近くの橋から滝は見えても、そこから先には道がないんですって」 天狗が住んでいるとかいないとか、そんな話を子供の頃に何度か祖父母から聞いたのを思い出したのは、高校入学式の帰り道。 海に近い学校は少し小高い場所にあり山も良く見える。 「桃源郷か……」 自宅から学校まで自転車ですぐ。 坂を降りた住宅街に家があるため、近いからと言うだけで決めたのだが、制服だけはちょっと気に入らない。 「ただいま」 「おかえりー。早かったのね」 「ねーちゃん、母さんは?」 「買い物。桃真(とうま)……制服似合わないわねぇ」 「そのうち見慣れるだろ?」 くすくすと笑ってくる姉を無視して部屋に行き、パーカーとジーンズに着替えてからテーブルに保護者用のプリントを置いて出かける。 「桃真、お昼ご飯は?」 「いい、ちょっと出かけてくる」 「お腹すいても知らないからねー!」
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