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「ほら省吾、もたもたしない!入れ替えよ!」
あずさの言葉に、はっとして振り返る。
すでに人の波に押されての入場が始まっていた。俺はみんなを瞬時に見失う。
当然、静流も…
「…省吾~ぉ」
突然、自分を呼ぶ苦しそうな声に振り返ると、すぐ隣に静流がいた。
小柄な静流が人にもまれ、その手が俺のシャツの袖を握っていた。
「静流!」
俺は反射的にその静流の腕を掴んだ。そのまま映画館の中に押し出される。
胸が、どきどきする。
今、俺、静流の手を(いや正確には腕だけど)握っている…?(いや、本当は掴んでいたんだけど)
「とにかく、どこか座ろう」
映画館の中が薄暗くて本当に良かった。きっと俺、顔が真っ赤だ。この前のオルゴールの時よりもずっと熱い…
「うん」
静流はうなずいて、適当に空いていた前の方の座席にふたりで並んで座る。
あっという間に周りの席が埋まる。
「座れて良かったね。みんな大丈夫だったかな?」
薄暗い照明が徐々に落ちていく中では、それを確認する事は出来なかったけど。
静流にこの顔の紅さがばれる前に暗くなって欲しかった俺は、ようやくほっとする事ができた。
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