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その時、ふたりが玄関から出て行くのを確認して、お父さんが私たちの方に向き直った。
「みんな、ありがとうな…省吾と仲良くしてくれて」
そして深々と私たちに頭を下げた。
なんで…?
びっくりしてる私たちに、お父さんは言葉を続ける。
「あいつな、最近よく笑うんだよ。みんなのおかげだと思う、ありがとう」
「親父っさん」
大ちゃんが、お父さんの前にきちんと正座した。
「俺、あいつの事聞かせてもらいたいんだけど」
「君は?」
「長澤大輝です。あいつ、何だってあんな風になんにでも遠慮してるわけ?」
大ちゃん…大ちゃんも気になってたんだ。
「親父っさん、俺、知り合ってなんぼも経たないけど、あいつの事すごい気に入ってるの。けど、わかんないことがあるんだ。あいつ俺だけじゃなくて、本当になんにでも遠慮しちゃってる風に見えるんだ」
その大ちゃんの言葉に頷いたのは私だけでは無かった。そこにいたほぼ全員だ。
「俺、この間あいつが大きな声出すとこ初めて見たんだ。入学しておんなじクラスになって友達になって、結構いろんな事あったのに初めてだぜ。あいつは怒って当たり前の所でだって怒らないし、なんだか誰にでも遠慮してるみたいに見えてすごく気になるんだ。なんでだ親父っさん?あいつ物分り良すぎだよ」
「……」
お父さんはちょっと困ったような顔で私たち全員を見渡した。
「…そうだなぁ」
お父さんが足を組みなおしてあぐらで座った。
「省吾が家に友達を連れてきたのは本当に初めてなんだよ。みんなの事がすごく好きなんだと思う」
「俺だってあいつ好きよ」
大ちゃんの言葉にお父さんが笑う。
「だから話してもいいのかな。…まぁ、あいつは怒るかもしれないけど」
「……」
「あいつな、5才の時に家族全員と一度に死に別れてんだよ。
俺はあいつの母親の…兄貴みたいなもんで。ちょうど省吾が肉親全員と死に別れた現場に居合わせて、たった一人残された省吾を見つけた」
な…!なにそれ。
「その時のショックだと思うんだが、省吾は口が利けなくなっちまって。半年ぐらいは児童養護施設に預けられていたんだけど、その時に省吾はわがままとか自分勝手とか…子供らしい感情を、全部自分で封じ込めちゃったらしいんだ。【あきらめる】って事を、誰よりも知ってる子供だったんだよ」
大ちゃんの、膝の上で握り締めた拳がギュっとなった。
「俺もまだ当時28かな。独身で、子供育てる自信なんて全然無かったから最初は省吾を引き取れなかった。
けど、会うたびに衰弱しいく省吾を見てられなくてな。とうとう「どうにかなる」って勢いで省吾を引き取っちまった」
お父さんが何かを思い出す様にちょっとだけ眼を伏せる。
「実際省吾は手の掛かる子供じゃなかったんだけど、俺が夜行の仕事をして家に帰るとあいつ一睡もしないで俺を待ってるの。これには参った。」
小っちゃい省吾が、夜の闇の中で一生懸命お父さんを待ってる姿が頭に浮かんだ。
すごく寂しそうで…
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