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「で、仕方ないから俺はしばらくトラック降りてた。昼間、工場に勤めたりさ。でも、もともとトラック乗りなんてつぶしのきく仕事じゃないから、俺自身もその時期、随分参っちゃって。
やっぱり、独身の男がいきなり5才の子供の親になるなんて無理あるよなとかと思ったりもしたんだよね、でも…」
でも…?
「あいつ、ある日いきなり俺のこと『父ちゃん』て呼んだんだ。
声、出なかったはずなのに一生懸命練習して。小さいかすれた声でさ。『父ちゃん、おれ大丈夫だからまたトラック乗って』て」
省吾…
「その声聞いた時、俺、省吾抱きしめて号泣したんだ。俺を呼んでくれた事が嬉しくて嬉しくて…本当に嬉しくて。同時に、あんなつらい思いばかりしてきた小さな省吾に、こんなに気を使わせたのかと思ったら自分が情けなくて。本当に大事にしてやらなきゃ、って」
ぽとぽとと、大ちゃんの膝に水滴が落ちてた。
涙だ。
でも私も顔を上げられない。もう、涙が止まらない。
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