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「そん時から俺、あいつの本当の父ちゃんだから」
お父さんは本当に優しい顔で笑った。そして私達を見渡す。
「省吾が優しいのは、あの齢で傷つけられる痛みを誰よりも知っていて、大事な物がいきなり奪い去られる辛さを身をもって知ってるからだよ。遠慮してるように見えるのは、大事なものを増やさないようにしてるあいつの防衛本能。人でも物でもだよ。あいつの部屋にあるガラスのショーケース見たか?」
大ちゃんと私がうなずく。
「あれ、俺が省吾の部屋に置いたんだ。あれもな、つい最近まで何も入ってなかったんだよ。どんなに見事なプラモデルとか作ってもその辺に置きっ放しにして壊しちまって。ほんとに物に執着がなくてな。
それが、中学にあがってからちょっと変わった。みんなに見せたいと思う様になったのかな」
私達に…?
「あいつがいつも一人だった理由はもうひとつ。3月まで住んでいた古い市街地の方は、昔の省吾の家族が亡くなった事件を知ってる奴らが多すぎて…いるんだよ、好き勝手な事を言う連中が」
お父さんの表情が辛そうに歪む。
「だから省吾はいつだって一人だった。今回この街に越してきて君らと会って、省吾はすごく楽しそうなんだ。本当にありがとうな」
「礼なんて言わないでくれよ!!」
大ちゃんが泣きながら叫んでる…
「俺が…俺らが勝手に省吾を好きなんだから!親父っさん、礼なんていわないでくれよ…!!」
うわーんと、声を上げて泣き出した大ちゃんにあずちゃんがハンカチを預けた。
そこにいたみんなが泣いてた。普段クールなタキちゃんまで。
省吾…ずっとずっと寂しかったんだね。
本当の寂しさを知ってる省吾だから、あんなに穏かで誰にでも優しいんだね。
良かったね。
今はこんなに素敵なお父さんと暮らせて、本当に良かったね……
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