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 コンコンと、再びドアがノックされる。 「どうぞ」  ドアを開けた守衛の口元に、米粒がついている。俺が無言で口元に手をやると、キョトンとしながらも同じように自分の口元に手をやった守衛。ほんの一瞬ハッとしてから、にやりと笑い、米粒を摘まみ口に入れ、またにやりと笑った。いい年の取り方をすると、こんなダサい仕草でさえも、カッコよくなるものなのか。俺も見習いたいが、無理だろうと早々に諦める。  そんなことより、本日二人目の泥棒だ。 「よろしくお願いします」 「どうも」そう言って、気怠そうに椅子に腰掛けたのは、見た目十代の女性。   俺は、再度「よろしくお願いします」と言って自席に着き、手順に乗っ取り本人確認をする。  彼女の名は、宮本梨子、二十一歳だそうだ。盗んだものは腕時計。盗った理由を尋ねると、彼女は、「欲しかったんです~」と、語尾を伸ばして言った。 俺はその流れのまま、本題に入る。 「腕時計を盗った理由は、どうしても欲しかったからですか?」 「まあ、強いて言えば~」 「強いて言えばって言うことは、他の理由が?」  そう尋ねると、彼女は途端に恥ずかしそうな顔になって、「誰にも言いませんか?」とハッキリした口調で言ってきた。仕事上、誰にも言わないことは保証できないと、正直に伝えると彼女は、一瞬嫌そうな顔をしたが、「まあ、いいかどうせバレるし」と言ってから、「わたし、友達の彼氏、とっちゃったんですよ~」と言った。 「それはつまり、友達の彼を泥棒したってことでいいですか?」 「そうですね、うわ、ドロボー猫じゃん、ウケる」そう言った彼女はちっとも笑っていなかった。  気を取り直して、「なんで、友達の彼氏とったの?仲いい子だったんですよね?」と尋ねた。 「嘘がバレて、しかも、めちゃくちゃバカにされたから、ムカついて……」 「ゴール!展開が早いですね!」  鮮やかな流れに思わず叫んでしまった。  なんせここまで瞬殺もなかなかに珍しいのだ。感慨に浸っていると、驚きに目を見開いていた彼女も気を取り直したらしく、「……何なんですか?」と、怒りを前面に出している。 「すいません、すいません、しっかりと説明しますね」  俺は心の底から謝り、彼女の冷ややかな視線に耐えながら俺の仕事について説明をした。 「……帰っていいですか?」 「もう少しお待ちください」  結局、守衛が来るまでの残り二十分間黙って過ごすことになってしまった。毎日やっていればこういうこともある。そう自分を元気づけ、気まずさをこらえつつ、おやつに食べようと思っていたエクレアを、冷蔵庫から出しそっと彼女の目の前に置いた。   【宮本梨子の場合: 嘘をつく、「彼氏がいる」と嘘をつく →友達に疑われる →嘘だとバレばかにされる →ムカつき、その友達の彼氏を奪う →ついでにベッドサイドにあった友達の彼氏の高そうな時計を盗む →バレる →泥棒になる】
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