11人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「驚かせてゴメンナサイ。ずっと多聞さんの肩の上にいました。ボクは白彦って言います」
「気を悪くしないでください。忌一君から貴方がいろいろと聞こえる方だと聞いていたので、白彦だけは姿を現さず、彼の声に反応する人間がいないかどうかで多聞さんを探していました」
そう言えば、と多聞は思い出す。今まで忌一の使役する式神の声を聞くことは出来ても、姿を見ることは出来なかった。三善のような正式な陰陽師ならば先ほどの彼女らのように、術か何かで式神を誰にでも見せることが出来るのだろう。おそらく陰陽師にとって式神の顕現は、自由自在なのだ。
人間の姿で多聞を探せば、この大都会では目立ってしまう。見えない姿で呼びかければ、声が聞こえる多聞だけが網にかかるというわけだ。
「ところでさっき僕に憑いていた異形というのは?」
「あぁ、あれは『耳巾着』と呼ばれる、人の耳に憑りついてその中へ侵入し、人間の記憶を食べる異形です」
耳巾着は人間の記憶が好物なので、あまり記憶の少ない若者には憑りつかないのだと言う。人生経験の多い人間に憑りつき、最近の記憶から貪欲に喰らっていく。認知症を発症した人の中には、この耳巾着が耳に憑りついているケースもあるのようだ。
「僕は耳巾着に老人認定されたのか……」
「ご職業が関係しているのかもしれません。多聞さんは作家業をされているので、普通の人より知識が多いでしょうから、それを嗅ぎ分けたのかもしれませんね」
「ちなみにその耳巾着というのは、どんな形をしてるんですか?」
「それ、訊いちゃいます?」
さっきまで人当たりの良さそうな笑顔だったのに、三善の表情は一瞬にして苦笑に変わった。
「後学のためにどうかひとつ」
「そうですか、それでは遠慮なく。イソギンチャクという生き物いますよね? あんな感じです」
「あ、あれが耳に……」
「ええ。ミミズが束になったような感じですかね。あれがうねうねと耳から出てました」
(訊くんじゃなかった……)
普通の人には見えないとは言え、想像すると結構な絵面だ。多聞は思わずガックリと肩を落とすと、三善はドンマイとばかりにその肩へ優しく手を置くのだった。
最初のコメントを投稿しよう!