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同日 午前9時48分
差島邸
インターホンを押すと、婆さんの声が返事をした。
「はぁい、どちらさま?」
「突然すみません。わたくし、西署の佐藤といいます」
「あら、おまわりさん?ちょっと待ってくださいね、今開けますから」
回線越しにドアの閉まる音がした後、入念に周囲を伺う俺の横で、何度も帽子を被り直しながらケンジが囁く。
「大丈夫なの?アニキはともかく、オレ顔見られてんだよ?いくら変装したって…」
「心配ねぇよ。若者の見分けなんざ付かねぇし、髪切って眼鏡かけてりゃ別人さ。それに聞いただろ、今の。警官にはノーガードなんだよ、年寄りってのは」
「そ、そっか。買っといて良かったね、この衣装」
「出来が良い分、高くついたが…ここで上手くいきゃチャラだ」
「上手く…って?」
玄関扉の向こうでドアの開閉音がする。俺はますます声を潜める。
「何事もなけりゃ、このままずらかる。もし気付かれりゃ…」
サンダルを突っ掛ける音。
軽い靴音。
そっと息を絞って、低い声で呟く。
「…始末する。」
ガチャッ・と錠が回り、金属の重い扉が開いた。
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