奥の手

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「茂」 「何?」 「夏休みもあとわずかだけれども、大丈夫なの、宿題」 「大丈夫。僕には奥の手があるから」 「奥の手?」 「だから大丈夫」 夏も終わりつつある中で一人の少年は8月25日まで遊び惚けていた。 夏休みに日本中の子どもを苦しめる宿題の事など気にもせずに。 そして、この少年は今日になって真っ白の問題集に一から取り組むことになった。 「ふふふ。正直、一問たりとも分からない。しかし、今年の僕は一味違う」 茂は机の中から厚い書類の束を持ってきた。 タイトルには『解答集』と書かれてあった。 そう、茂が通う学校では今年から夏休みの宿題に対して答えが付くようになったのだ。 使うか否かは本人達次第。 「先生は、使う時はそれ相応の覚悟をしろ、とおっしゃっていたけど、そんなの関係ない」 茂は意気揚々として、写し始めた。 ここは茂が通う中学校。 部活動で遅くなった教員が職員室で涼んでいた。 「いよいよですね」 「ああ。これではっきりする」 「真面目か不真面目なのか。そうですよね」 「例の解答集。日ごろからきちんと勉強していれば気づくはずだ」 「何せ、全部のページが間違っていますからね」 「ああ」 「でも、大丈夫ですかね。問題になりませんか」 「それは大丈夫さ。最初に言ったからな。それ相応の覚悟をしろと」
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