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泥棒って浪漫です
「泥棒」って、浪漫なんですよ。あ、この浪漫は漢字の方で。
僕ね、小学生の時にレオーノフの「泥棒」っていう本を読んだんです。それに感動しちゃって…。
それをきっかけに「泥棒」についてよく考えてみたんですけどね?
そもそも「泥棒」っていうと手ぬぐいの方を想像します?そう、あの緑色のぐるぐるの。いやー、分かってないなぁ。
「泥棒」の語源って諸説あるものの僕が一番気に入ってるのは、泥を顔に塗って分からないようにして、棒を持って盗みをする、ってやつです。
大昔、仮面、はたまたウィッグやら、化粧だってそんなにない時代ですよ?
それでも隠れるために何処にでもある泥を使って!
あまつさえただの棒!殴る事しかできない棒を持って盗みに入るという大胆さ!
うーん、素晴らしいなぁ。
実に泥くさくて、原始的で、頼れるのは己の力のみっていう感じで!
…怪盗。
今、今そう言いました?
怪盗って?
僕の話ちゃんと聞いてました?
怪盗と泥棒を一緒にするなんて…ナンセーンス!!!
もう!いいですか?
怪盗はあんなに派手でギラギラした服を着て。それで予告状までかっこつけて出しちゃって!逃げるときも空から逃げる、ですか?
ほんとに分かってない!!
だから、そもそも泥棒っていうのは語源が諸説あるものの…。
え、聞いた?
なら、分かってくれました?怪盗と泥棒が別物だって。
…ならいいです。
で、僕は「泥棒」と呼ばれたいわけですよ。
…盗みは犯罪だって?
それくらい知ってますよ?
窃盗罪は刑法第235条、他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。ですよ?
…なんですかその解せない顔は。
…まあ、話を続けると僕は「泥棒」と呼ばれたいこの夢を小学生の時に持ったわけです。
夢を叶えるには早いうちから行動するべきです。
ということで、僕は泥棒と呼ばれようと行動を起こしました。
あれは12歳の夏。小学校卒業前に一回は、と思い立ち島の唯一の公園に向かいました。
ただ、ほら。
それには一つ障害があって。この島人口少ないじゃないですか。
ほとんど顔見知り。すぐにばれて「泥棒」と呼ばれる前に名前を呼ばれますし、最悪いたずらっ子だなぁと怒られもしない可能性があったんです。
だから、僕は毎日公園に朝から夜まで行って、知らない人、まあつまり観光客の人が来ないか待っていたわけです。
夏休み終わる4日前にその時はやってきました。
外国人のカップルが公園の池にあるボートに乗りに来たんです。
僕は高鳴る胸を抑えながら茂みで服を着替えて顔に泥を塗って。理想の棒がなかったので木の枝を持って、カップル以外誰もいないことを確認して突撃していきました。
彼女が手に持っていたわたあめを目掛けて。
作戦は成功。
僕は唖然とするカップルを横目に戦利品をしっかり持ちながらボートに乗って逃げました。
でも、これでミッションコンプリートじゃない。
「泥棒」と呼ばれることを待つ僕の耳に飛び込んできた、そう!
「…ぼう!どろぼう!」
かなり声を張り上げながら叫ぶカップル。
何回も、僕を指さしながら「どろぼう!」と言っていたんです!
もうそれで僕は毎日暑い中公園に来ていた苦労が報われて、夢が叶ってほくほくです。
でも、よーくよーく聞くと「どろぼうと!」と変な音が入っていて。
…それが、「Drown boat(ボートが沈む)!」と言っていたと気付いたときにはもう遅かった。
そのまま僕は水の中に沈んでいきました。
まあ、それは知ってますよね。なんせ小さい島。話題が回るのは早いし、ちょっとした一大事になりましたから。ほんと、ご心配かけました。
結局、カップルの彼氏が泳いで僕のところに来て引き上げてくれたんです。
引き上げられた僕はというと顔の泥は落とされ、木の枝は沈み、しっかり握っていた戦利品のわたあめは水に溶けて残らないというなんとも残念な結果に。
色んな人に怒られたことよりも僕は、「Drown boat」を「どろぼう」と聞き間違えて喜んでしまったことが一番悔しかったんです。
ほんと。3日間は寝れなかった。
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