1 青春の終わり

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1 青春の終わり

 写真を撮る、という行為をこの約6ヶ月で一生分したような気がする。もうこんなに情熱を持って撮る事は無い。そう思えるくらい濃密な半年だった。 「2番線、ドアが閉まります。ご注意下さい」  無機質なアナウンスが流れる。僕は紫色の座席に座って電車の出発を待つ。人の流れは絶えず、中はすぐに満杯になった。  田舎の冴えない高校から都会の一流大学への進学。周りは喜んでいたけれど、僕は少し寂しい。こんな僕にも郷土愛という物が芽生えたようで、人並みに離れがたくなっていた。  ふと僕は卒業アルバムをリュックサックから取り出して眺める。ブレた20枚の写真。全てが僕にとっての大切な宝物だ。その後はクラスの集合写真が、ブレずに綺麗に写っている。そういえばこんなに近くにいたのに、2人きりで写真を撮った事が無かったな、なんて思った。  控えめに笑ってピースしている1人の女の子。僕の初恋の女の子。名前は桜。 「僕も青春、嫌いになれたよ」  そんな独り言は喧騒に塗れてか細く消えた。
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