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6 卒業式
「樹、おめでとう」
「……ありがとう」
卒業式が終わって、僕と飯尾は高校生活最後の休み時間を迎えていた。
「なんたってM大学だもんな〜。気分だどうだ?興奮してんじゃねえか?」
「冷静だよ。寧ろこれからやっていけるのかなって不安な位にね」
僕と篠塚さんは目的通りアルバムを壊すことが出来た。20枚全てをブレた写真にして、アルバムは皆に配布された。僕と篠塚さんは2人でニヤニヤしながら様子を見た。
予定外だったのはそのアルバムが好意を持って迎えられたことだ。「俺達のクラスって感じでいいな!」とか「まじウケる〜」とか僕達の写真に難癖をつける人は出てこなかった。クラスメイトは皆優しくて、僕達は彼らの青春に泥を塗ることが出来なかった。
「失敗しちゃいましたね」
それでも篠塚さんの笑顔は晴れ晴れしくて、僕は別にいいかなんて思った。篠塚さんが不平を言わないなら、それでいい。
「所でだ。お前の彼女とはどうなったんだ?告白の返事は!?それが気になって夜しか寝れなかったぜ」
「……告白しなかったよ」
「え、なんで!?勿体ねえな!」
飯尾の厳しい目線が僕に突き刺さる。僕は両手を挙げて白旗を振る。
「篠塚さんは友達がいないから、仕方なく僕に付き合ってくれていただけだよ。アルバム委員が僕じゃなかったら、きっとその人を」
「……お前は、いいのかよ」
「……僕なんかじゃ篠塚さんに釣り合わないよ」
5分前のチャイムが鳴る。「さあ、行こうかな」と僕が言うと、飯尾は不満げながらも自分の教室に向かった。
「楽しかったぜ、樹」
「僕もだよ、飯尾くん」
「まあ帰り道一緒だから、また会うけどな」
適当な言葉には確かに、友情があった。
教室に入ると、浮き足立ったクラスメイト達がチャイムも聞かずにはしゃいでいた。担任の先生も咎める気は無いらしく、笑っていた。
「樹くん。飯尾さんとどんな話したんですか?」
「別に大した事じゃないよ」
上手くはぐらかすと、高校生活最後の着席をする。この高校とも別れることになると思うと、不思議と感動が胸の中にストンと落ちてくる、気がする。
「樹くんは最後の会が終わったら、電車で引越し先に行くんでしたよね?」
「うん。電車で空港まで行ってそこからひとっ飛び。飛行機乗ったことないから緊張しちゃうなあ」
お父さんとお母さんは仕事の関係上来れないらしく、1人で頑張りなさいと背中を押された。薄情な親だって思う人もいるかもしれないけど、愛情は誰よりも貰ったから、これは試練だと思って頑張るつもりだ。
「篠塚さんはどうだった?高校生活の思い出とか出来た?」
「うーんと、樹くんとアルバム委員を始めた時からしか記憶があんまりなくて。しかも文化祭は私行けませんでしたし、それからは受験勉強しかしなかったので特段思い出とかは……」
「でも」と篠塚さんは続ける。
「樹くんが隣にいなかったら、体育祭で私が走った写真も無かったし、チョコバナナの味も知りませんでした。私はこれでも感謝しているんです」
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