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私は下校の時間になっても席を動けないままでいた。樹くんもクラスメイトも皆帰っても、私は無言で駄々をこね続けていた。外で雄弁に咲いている桜は私と違って喜んでいるように感じた。
「あれ!?まだ残ってたんですか?」
「……委員長、じゃ無くて今は橘さんですよね」
「別に委員長で良いですよ!この称号、結構気に入ってるんです!」
颯爽と現れた委員長は黒板に書かれた桜の絵を消し始めた。多分担任の先生から最後の仕事として言い渡されたのだろう。いつもより気合いが入っている気がした。
「委員長は元気ですね」
「ええ!元気は何よりも大切ですよ!」
私は委員長と話したいことも無かったから、席を立って教室を出ようとした。1人で感傷に浸っていたのを見られて、少しバツが悪かったのもあった。
「じゃあ委員長、私は……」
「樹さんの所に、行かないんですか?」
ドキッと心臓が痛くなる。今1番心を悩ませる人の名前を、まさか委員長の口から聞くなんて夢にも思わなかった。
「お別れはもう言いましたし、別にもう会う理由も……」
「本当ですか?まだ何かあるんじゃ?」
元気らしさがなりを潜めた委員長は私に近づいて、肩を掴む。そして、私を抱きしめる。あまりに突然過ぎて、思考が白色に染色される。
「篠塚さん。私の勘違いならごめんなさいして土下座するんですけど、樹くんのこと、好きなんですよね?」
「いや、別に、その……」
「私の野性的直感が言っているんです。我慢して、閉じ込めてるのが目に見えて分かるんです。痛々しくてどうしても見てられない。何かまだ伝えたいことがあるなら、電車今からでも間に合いますし、会いに行けばいいんじゃないですか?」
お母さんは今日は急いで帰って勉強しなさいと言った。
樹くんに今更会ったってどうにもならない。
樹くんにはもっと完璧で美しい女性が━━━
「しっかりしなさい!篠塚桜!」
「……私は」
「その涙が、答えですよ」
涙が1滴、また1滴。量が増えて鼻水も出て、嗚咽が出る。分からない。分かりたくない。分かってたまるか。
「……私は、どうしたらいいの?」
「……身勝手で良いんですよ。独り善がりで良いんですよ。誰かに反抗したり、抵抗して良いんですよ。素直になっていいんですよ。だって、生きているんだから」
「……生きてるから」
「そう、生きてるから。篠塚さんにどんな事情があるか、私の馬鹿な頭じゃ分からないですけど、篠塚さんが苦しんでいること位分かりますよ。私、委員長ですから」
私は願っても良いのだろうか?
お母さんに反抗して良いのだろうか?
こんな、こんな簡単に気持ちが変わって良いのだろうか?
私は、好きになっても良いのだろうか?
答えは出ないけど、覚悟は決まった。
「……委員長、ありがとう」
「委員長の仕事は生徒の幸福の為にあるのです!これくらい全く無問題です!」
委員長は最後の最後まで、委員長だった。
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