1.霞がかる契

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先程も言ったように私は、大学進学を機に地元を離れて都会に出た。 都会には面白いものが沢山あり、私は飽きる事なく大学の4年間を過ごした。そして、就職も帰らなかった。まだまだ都会を楽しみたいという思いもあった。 地元に帰ってもできる仕事は限られている。そのため、そのまま都会で就職した。家族も、もう帰ってこないだろうと思っていただろう。そして、職場の同期と交際。しかし、就職した会社がブラックだった。残業の嵐に見舞われ、家に帰れないことも多々あった。そんな中で彼氏との時間を作るなんて、とてもじゃないが私には出来なかった。そして、その同期の彼氏、田原 広大(たはら こうだい)冒頭のあの台詞を吐いて私を振った。 彼氏との時間を作れず、仕事ばかりの女より可愛らしく頼ってくれる子の方が男からしたらいいのだろう。頭では分かっているが、私は長女で跡取りとして育ってきたため人に頼るということを知らない。勿論、沢山の人に支えてもらっている、それは分かっているが、自分から甘えることはない。むしろ、そんなことをして自分のためになるとは到底思っていない。これが、男だったらこの考えで良いのだろう。でも私は女だ。周りの友達は「もっと女としての幸せを考えたら?」と言ってくる。大きなお世話だ。 勿論、結婚して子どもを産んで有藤家を繋いでいかなくてはならない。でもそれは、私の義務と責任だ。果たしてそれが幸せと言えるのだろうか。 いつかは、帰ってその通りにしないといけないと思っていた。しかし、私はこっちで恋人を作って役目から逃げた。地元はそういった風習が未だに根強く残っている地域である。 さらに、私の実家は茶道教室で地域では名が知られた家である。自分で言うのもなんだが… いつかはそれも継がなければならない。 そんな重責から私は逃げ出したのだ。 その罰か、碌な奴に引っかからない。 そしてブラックな会社で社畜をやっていたら、心身共に病んでいたみたいだ。パタっと倒れてしまった。 いわゆる”過労”である。そして、倒れて意識が無かった間、ある夢を見た。 子供の頃の夢。 思い出のような感じであった。しかし、記憶に霧がかかって全てが見えない。 ずっと忘れていた、そして忘れてはいけない”約束”があったような感覚に囚われた。 目が覚めた時、私は何故だか無性に帰りたい衝動に駆られていた。逃げ出したにも関わらず。そして、迎えにきてくれた両親と一緒に地元の出雲に帰った。 これは単なる帰省ではなく、仕事も辞めて故郷に帰って一からやり直す事にしたのだった。
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