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これから
瑞稀はずっと隣りにいてくれると言ってくれた晴人のことが、愛しくてたまらない。
「晴人さん、愛してます」
心の声が溢れた。
突然、瑞稀に愛を囁かれ、晴人は目を丸くしたが、すぐにふっと笑い、
「俺も愛してる」
囁き返す。
晴人に出会った瞬間好きになり、一緒の時間を過ごしていくうちに、好きから恋に変わり、晴人のことをより知っていくうちに、恋から愛に変わった。
こんなに愛する人に出逢えて、お互いを想い合い愛し合う。
こんなにも幸せなことがあっていいのだろうか?
夢ではないかと、瑞稀は自分の頬をつねった。
つねった頬は痛かった。
きちんと痛かった。
「夢じゃ、ない」
瑞稀は痛みを噛み締めた。
「夢じゃないって、何かあった?」
「こんな幸せがあっていいのかって思って」
「どうして?」
「晴人さんがいて千景がいて、お腹には赤ちゃんがいる。お義父さんやお義母さん、父さん、母さん、すみれ、みんなに祝福されている。僕が思い浮かべていた夢以上の現実が目の前にあって、これは全部、夢なんじゃないかって思ってしまったんです」
瑞稀がそう言うと、晴人はあははと笑った後、
「夢だったとしたら、本当に困る」
と、わざと物凄く渋い顔をする。
「頬をつねらなくても、これは夢なんかじゃない。もしまた夢なんじゃないかって不安になったら、その時は『これは夢じゃない。現実なんだ』って瑞稀の隣りで言い続けるよ。だから安心して今の幸せを大切にしていこう」
晴人は瑞稀の手の上に自分の手を重ねた。
瑞稀は大きく頷く。
「ママお空見て。アイスクリームみたいな雲があるよ」
後部座席から千景の元気な声がする。
瑞稀が空を見上げると、真っ白な入道雲が沸き立っていた。
「本当だ、アイスクリームみたいだね」
「食べられるかな?」
千景が訊く。
「雲は食べられないけど、あんなに大きなアイスクリームがあったら食べたいね」
「うん!食べたい」
「じゃあ、今からアイスクリーム食べに行く?」
晴人が提案すると、千景は両手を高く上げ、
「やったー!」
とガッツポーズをする。
「それじゃあ」
晴人は車をUターンさせ、高速に乗る。
「アイスクリームのお店、そんなに遠いんですか?」
瑞稀が訊くと、晴人はおもむろにBGMをかける。
曲はボサノバ&ジャズ系の癒しの曲。
「もしかして……」
「そう、そのもしかして」
得意げに晴人が微笑む。
「え?なになに?僕にも教えて」
一人わかっていない千景は瑞稀も晴人を交互に見た。
「それは着いてからのお楽しみ」
晴人はチラリと千景を見る。
「確かあのお店には、おいしそうなお子様ランチありましたよね」
「そうそう、あったあった!」
「お子様ランチ!?」
「しかもご飯がくまさん」
「くまさん!?」
千景の目が期待でキラキラ輝く。
「晴人さん。今日はあのお店でお昼にしませんか?」
「いいね、そうしよう」
「千景、今日のお昼ご飯は、くまさんお子様ランチに決定〜!」
「くまさんお子様ランチに決定〜!」
千景は両手を高くあげ、バンザイをしながら大喜びした。
どこまでもついてくる入道雲を横目に、三人を乗せた車が海岸線目指して走っていく。
高速を降りたら別世界。
海を見ながら車は走る。
二人の思い出の場所に向かって……。
ーー終わりーー
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