来い、夏

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「……いつ?」 「来週かな。夏休み中に、いろいろ準備したいし」 夏奈の声は相変わらず淡々としている。 何を考えているのかわからない。 本当に、夏奈は引っ越すのだろうか。俺と離れるのだろうか。 夏奈の言葉を聞いただけでは、実感が湧かない。 きっと、明日も実感なんて湧いていない。 もしかしたらドッキリかもしれない。だとしたら、タチの悪いドッキリだ。 けど、今はタチが悪くてもかまわないから、嘘であってほしいと願っている。 「……そっか」 「うん」 俺の相槌には相槌で返される。 そのあと、ふたりの間に沈黙が流れた。 ネタバラシするなら今だ。 けど、沈黙が答え。この気まずい空気が答え。だけど、最初から夏奈がそんなタチの悪い嘘をつかないことを俺は知っているから、馬鹿な期待をするだけ無駄だった。 「……うん」 「うん」 何も言葉にできない。 17年、夏奈と一緒にいるけど、こんなことは一度もなかった。 どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ? 決まってすぐに言ってくれたら良かったのに。 一週間前まで隠していたということは、意図的に言わなかったんだ。 今まで兄妹みたいに育ってきて、俺たちの間に隠し事はなかった。お互いがお互いをいちばん知っている。誰よりも分かり合っている。 俺たちは本当の家族よりも、近い距離でお互いを見てきた。 だから、夏奈がこの町を出て行く。 そんな重要なことをギリギリまで教えてもらえなかったことに、俺はすごく腹を立てているのかもしれない。 今日一学期の終業式を終えて、夏休みに突入した最高の今なはずなのに。来年は受験生になるから、思いきり遊べるのは今年だけなんだ。 それなのにこの夏、俺と夏奈は離れる。 いちばん近かったはずの夏奈が、遠い存在になる。
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