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「どんな音がするのかしら」
物干し竿に、洗濯物を引っ掛けたハンガーを吊り下げていきながら、クラブを両手で握りしめて、涼平の頭めがけて、力一杯振り下ろす自分をイメージしてみる。
「お掃除が大変よね、見た目も悪いし、匂いも気になるわ」
誰にも聞かれる事なく、呟いた言葉は、ふわりと、冷たい風と共に、私をすり抜けていく。
「亜紀ー」
「はぁい、どうなさったの?」
私はすぐに、洗濯物を干す手を止めると、リビングの涼平のところへ小走りで駆けていく。
「カモミールティー入れてくれないかな?亜紀の入れてくれたカモミールティーは、ほっとするから」
「すぐ、入れるわね」
グロスをキチンと塗った淡いピンク色の唇から白い歯を見せながら、二重瞼を細めると、私は、いそいそとキッチンへと向かう。
「亜紀、リンゴも剥いてくれる?」
リビングから、涼平の声が聞こえる。見れば、涼平が胡座をかき、磨き上がったクラブを満足げに眺めながら、こちらを見て微笑んだ。
「えぇ、勿論。カモミールティーと一緒に持っていくわね」
本当、リンゴを剥くように、一緒に貴方の化けの皮も剥ぎ取れたらいいのにね。
私は、ダイニングテーブルのバスケットから、1番赤いリンゴを手に取ると、丁寧に水道水で洗い流していく。
「どうしようかしらね」
私は、カモミールティーを蒸らしながら、まな板の上で、真っ赤なリンゴを真っ二つに包丁で切った。
その断面からは、見えない欲望の汁が、滲み出ているような気がした。
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