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「カモミールティーいれるわね」
私は、カモミールティーの茶葉を蒸らしながら、涼平の前に座る。
私は、涼平とカモミールティーを飲む時間が、本当に好きだった。涼平と結婚してから、この時間だけは、何一つ変わらない。
「いい香りだな」
そう言って、涼平は、切長の瞳を細めて穏やかに笑う。私の瞳だけを見つめて笑ってくれる。
『亜紀の好きなケーキ買ってきたよ』
『明日の休日は、2人で何処にいこうか?』
涼平が、私だけを見つめてくれた日々を思い出す。幸せで愛おしくて、楽しかった思い出。
ーーーー何を間違えたんだろうか。
私の命の期限がくる頃、涼平の好きな、カボチャグラタンに、毒性のあるニチニチソウを大量に入れて、あの、青いインコのように、大空へ飛び立っていく。
私も。涼平さんも。
一緒に暮らし始めた頃の、楽しかった思い出だけを抱いて。
さぁ、互いに良き夫婦を演じながら、夫婦らしく、共に黄泉の国へと参りましょう。
「どうぞ、召し上がれ」
自身の手元のカモミールティーを、覗き込めば、いつもの心地よい香りと共に、涼平の歪んだ顔が、浮かんで消えた。
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