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「綺麗……」
思わず、溢れた言葉に、涼平の言葉が重ねられる。
「そうだね。でも亜紀の美しさには敵わないよ」
その瞬間、私の笑顔は、紛いモノだらけの作り物へと変化する。
「また、そんな事言って」
私は、照れた素振りをしながら、テーブルに飾ってある、ニチニチソウに触れた。
「可愛らしい花だね、なんていう花だっけ?」
「ニチニチソウよ、花言葉は、楽しい思い出」
私は、心から愛おしく、その花を見つめた。
「楽しい思い出か……まるで、僕と亜紀の結婚生活そのものだね。毎日の日々が、楽しくて、日々の小さな幸せが、思い出となって積み重なっていく」
涼平の言葉に、腹の底から、真っ黒いモノが渦を巻いて膨らんでいく。
「ふふっ、本当ね。幸せよ、涼平さん」
「僕もだよ」
私は、心に渦巻く憎悪と嫉妬をひた隠しにして、今日も偽りの私を演じていく。
涼平の求める、理想の麗しき妻をひたすらに、演じ続ける。
ーーーーやがて訪れる、その日の為に。
決して悟られてはいけない。気づかれてはいけない。
私は、涼平の好きなだし巻き卵と、お味噌、炊き立ての白ごはんを並べて、にこりと微笑んだ。
「どうぞ、召し上がれ」
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