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私は、都内の芸術大学を卒業しており、専攻は、工芸学科で、インテリアのデザインは勿論、建築学や、住居学も齧り、インテリアデザイナーの資格を持っている。
両親が、手放しで喜ぶ、価値ある男性と結婚する代わりに、大学だけは、自分の好きな事を学ばせて欲しいと頼んだのだ。
「外で働いて、大変な思いをしなくても、亜紀は、この家で家事と料理をしながら、僕の帰りを待ってくれたら、それだけでいいから」
涼平は、お味噌汁を飲み干しながら、微笑んだ。
(それだけ、ね)
私は、籠の中の青い鳥と同じだ。
いつまでたっても、外へ羽ばたくことも、籠の中から出してもらうこともなければ、本当に必要ともされていない。
これじゃあ、ただの小間使いだ。
「あ、これ今日の食費と昨日頼んだ、スーツのクリーニングの代金だよ。レシートとお釣りは、僕のデスクに置いておいてね」
「涼平さん、いつもありがとう」
「亜紀こそ、いつも僕の身の回りの事、ありがとうね」
涼平は、いつものように、一万円札をテーブルに置くと、クリーニングから、戻ってきたばかりの清潔なスーツに着替え始める。
涼平が慣れた手つきで、ネクタイを結んでいく姿を見れば、そのネクタイを、涼平の首ごと、私の両手で、強く締め上げてしまいたい衝動に駆られる。
涼平の食事に、少しずつ毒物を混ぜてしまおうかと頭によぎったのも一度や二度ではない。
ーーーー殺したい。
籠の中の鳥はいつだって、広い世界に飛び出していきたいのだ。
自分の羽を目一杯広げて、誰も知らない遠く果てしない空の向こうまで、飛んでいきたい。
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