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第一章 私を褒めて
夕食の仕度をしているだけなのに、いきなり竜也にからまれた。乱暴者で物を壊したとか誰かを怪我させたとか、学校からよく苦情が来る。
「うぜえんだよ、くそばばあ」
「お母さんの何がうざいの?」
「存在自体」
まだ小六の息子に心ない暴言を吐かれても困った顔で笑ってるだけの情けない私。
「〈くそばばあ〉なんて汚い言葉を使っちゃダメじゃん」
すかさず凛が弟をたしなめる。凛は中二の娘。家での態度は悪いけど、竜也と違い学校では友達が多くて、いい子で通っている。
「ちゃんとお母さんって呼ばないとね。お母さん、これからはお母さんって呼んであげるからお金ちょうだい。一万円でいいからさ」
「お母さん、お金なんて持ってないよ」
「知ってて馬鹿にしたんだよ。ホント使えないよね、このばばあは」
「姉ちゃんだって〈ばばあ〉って呼んでるじゃん!」
「あたしは頭に〈くそ〉ってつけてないから」
「ホントだ。やられた!」
姉弟で爆笑している。二人にとって私は家族でさえなく、家政婦以下のストレス解消の標的でしかないのだ。
子どもたちからは〈ばばあ〉と呼ばれ、夫からは〈おい〉だの〈馬鹿〉だのとののしられる。久しく名前で呼ばれていない。
麻生七海。それが私の名前。でもいいか。この名字に変わってから、いいことなんてなんにもなかったもの。そんな名前で呼ばれたいとも思わない。私が小倉七海だった頃、世界はもう少し優しかった気もする。私の心の拠り所はもう十五年以上前のその世界にしかない。
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