503人が本棚に入れています
本棚に追加
専業主婦なのにこの家の中に私の居場所はない。日中、夫や子どもが会社や学校に行ってるときも、舅や姑がいて一人きりになれるわけじゃない。
めったにないが、舅と姑が外出してるときだけがほっと一息つける時間。
「今の時間は?」
「明日の天気は?」
「テレビをつけて」
スマートスピーカーに意味もなく指示を出して、その通りにさせることだけが密かな楽しみ。この家で私を傷つけないものは猫のミケとこのスマートスピーカーだけだ。
スマートスピーカーに与えるお気に入りの指示は、
「私を褒めて」
と言うこと。スマートスピーカーはありったけの美辞麗句を私に投げ返してくれる。
「今日のあなたは最高にクールでクレバーでスマートですね。きっと今日も素晴らしい一日になることでしょう」
私はうっとりとスマートスピーカーの饒舌な口上に耳を傾ける。ただ難点があって、褒め言葉がいつも同じであること。
こればかりはどうしようもない。同じセリフを以前も聞いたことを忘れて聞いているしかない。
それにしても、楽しみは機械の褒め言葉を聞くことだけって、どうしてこんなことになってしまったのだろう。私は高卒で就職してたった一年で寿退社してしまったけど、会社勤めしていた頃はまだ楽しいこともたくさんあったのに――
最初のコメントを投稿しよう!