第五章 修羅の旅

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 運転疲れもあってぐっすりと寝込んでしまい、何時か知らないが慎司に起こされた。  「下着もつけずに寝たのか。朝からやる気まんまんだな」  「そんなわけじゃ……」  慌てて胸を手で隠したが、それで余計慎司の欲情に火をつけてしまったらしい。  「遠慮すんなって」  前戯もなく慎司の性器が侵入してくる。抵抗してまた殴られるのは嫌だ。私はおとなしく、私の上で腰を振っている慎司の顔を見ていた。性欲と征服欲を思う存分に満たしながら、慎司はニタニタと笑い続けている。私はもう笑い方も忘れてしまった。  昨夜、私の分の夕食が用意されてなかったが、あとから変更して朝食は四人分用意されていた。義父母が先に来て私たちが来るのを待っていた。朝から姑が突っかかってきた。  「寝坊するなんて嫁失格じゃないかしら?」  「すいません」  「まあそう言うな。新婚旅行初日だぞ。昨晩はずいぶん燃えたんじゃないか。なあ、慎司?」  舅がかばってくれたけど、その発言はセクハラだと思う。言わないけど。  「ああ、夜は今夜は寝かさないなんて言われて、朝は朝で全裸でおれを誘ってくるんだ。体力がもたないぜ、まったく」  夜そんなことは言ってないし、朝誘った覚えもない。  「澄ました顔してずいぶん淫乱なのね。そういえば前の嫁もとんでもない変態だったわね」  「変態?」  どうせただのいつもの言いがかりなのに、つい姑に聞き返してしまった。  「夫婦で外出していて帰ってきたら、裸の香菜さんがロープで縛られてリビングの床に転がっていたことがあったのよ。慎司に聞いたら、香菜さんは縛られたり恥ずかしい姿を見られたりするのが好きだったんだって」  嘘だ。慎司が香菜さんを身動きできない姿にして家を出ていったのだ。慎司はおそらく義父母が帰宅する前に拘束を解いてやるつもりが、想定より早く義父母が帰ってきてしまったのだ。  いつか私も同じ目に遭わされるのだろう。でも仕方ない。両親、光留、それに香菜さんと春ちゃん。私は慎司との結婚と引き換えにたくさんの人を不幸にしてしまった。私は死ぬまでその報いを受けなければならない。今まで私の人生に無縁だった因果応報という四字熟語が、今では私の人生そのものを象徴する言葉になった。
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