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第六章 修羅の家
運転手兼荷物持ち兼姑の説教の聞き役兼舅のお酌係兼慎司の性のはけ口。それが四泊五日の新婚旅行での私の役割。言い換えれば奴隷。
新婚旅行二日目からはレンタカーの運転は慎司がやってくれたし、食事が三人分しかない、ということもなかった。
一見平和な日々。でもそれは私が奴隷の身分であることに甘んじて、彼らに一切抵抗しなかったご褒美として与えられた、まやかしの無風状態でしかなかった。
旅行から帰ってきて、
「いい旅行だったわね」
と姑に何度も同調を求められた。私は必ず姑が望む以上の返事を返した。姑はそのたびに満足してご機嫌になる。言いなりになれば嫌がらせされないのなら言いなりになればいい。私は考えることをやめた。今が平和ならそれでいい。
旅行後に私の処遇が改善されることはなかった。姑も専業主婦なのに家事のほとんどは私の負担。姑は私の指導係だと公言して、口やかましく私のやった家事に難癖をつけるだけだった。
結婚してから知ったが、舅は慎司が勤務する新世界運輸の親会社の原商事で嘱託で働いていた。
「もう定年したしさっさと引退したいんだが、おれがいないと会社が回らないからな」
酒を飲むといつもそう豪語していた。定年時の役職は部長。慎司が新世界運輸に採用されたのも、当時親会社の部長だった舅の手回しによるものらしい。
でも私はこの舅のことが口うるさい姑に劣らず嫌いだ。この家は浴室の前に洗面台があるのだけど、わざわざ私がお風呂に入ったタイミングを狙って舅はよく歯磨きしに洗面所に入ってくる。そして私がお風呂から上がるまでずっと歯を磨いている。
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