第六章 修羅の家

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 私はもう何も言い返せなくなってしまった。実は、慎司と結婚して凛を産んだあとも、光留と再会して彼にすべてを許されて連れ子再婚する夢を見ることもあった。慎司に抱かれながら、光留に抱かれてるつもりになったこともあった。光留と声に出そうになったことも何度もあったが、それはなんとかこらえた。  ちなみに、凛を出産したのは偶然にもクリスマスイブの夜だった。本当ならその一年前のクリスマスイブに私は処女を光留に捧げているはずだった。実際のその日は慎司と交際を始めてまもなくの頃だったから、ラブホテルに連れ込まれて朝まで寝ないでひたすら行為していた。当時の奥さんの香菜さんにどんな言い訳をしたか知らないけど、クリスマスイブの夜に家に帰ってこないのだから、浮気を疑われて興信所に駆け込まれても当然だと今なら思える。  優しい光留なら今までのことを全部許してくれるかもと根拠のない望みを持っていたけど、たとえ彼がまだ私を愛してくれていたとしても、慎司が撮影した動画を見れば百年の恋も冷めるだろう。  いやそれ以前に、美しい思い出として私の心で星のように輝いている彼に、私の恥ずかしい姿を絶対に見られたくなかった。どんなに人生がつらくても、これからの未来に何もいいことがなかったとしても、過去の思い出だけは降って積もったばかりの雪のようにきれいなままで存在していてほしかった。  「私は絶対に慎司さんから離れないし、この家からも出ていきませんから」  「その言葉を聞きたかったんだ。おれ、これでも七海のこと本気で愛してるんだぜ。ひどいことしたあと、いつも七海に嫌われたんじゃないかって不安になった。不安だからまた七海にひどいことをしてしまう。その繰り返し。そんなダメなおれを、七海はこれからも愛してくれるんだな?」  慎司がそれを自分から自白するとは思わなかった。私はいつからか慎司のそんな弱さに気づいていた。  「愛してあげるよ、慎司さん」  途端に顔を殴られて、視界全体がぐにゃりとゆがんだ。  「愛して〈あげる〉? 偉そうに言うな!」  「ごめんなさい」  慎司はハッとしたように自分が殴った辺りを優しく撫でる。  「言ってるそばからおれは……」  この人には私がついてないとダメなのだ。その事実を再確認できただけで十分だ。  「大丈夫。痛くないよ」  「七海!」  ベッドに押し倒されて、仲直りのセックスが始まった。こういう行為は嫌いじゃない。だって仲直り目的のときは嫌なことや痛いことは一切されないから。かえって慎司の心が痛いのだろう。そんなふうに彼を思いやれる余裕も心に持つことができたから。
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