第六章 修羅の家

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 慎司は子育てに関心を示さず全部私任せ。一方、義父母は私のやり方のすべてを否定した。私が凛と竜也に対して優しく接すれば甘やかすなと私を責め、子どもたちに厳しく接すればおまえは鬼かと私を罵倒した。  「おまえのその体に流れてる血は何色だい? さすが凛を身ごもったとき中絶しようとした女だよ」  慎司が妻帯者だと知ったのは、凛を身ごもったあとだった。中絶しようかと悩んだことが一度もなかったと言えば嘘になるが、実際に中絶を勧めたのは私ではなく当時の奥さんと別れる気がなかった慎司だった。姑だってそのことを知らないわけがないのに、何かといえば中絶未遂ネタで私を罵倒した。しかも当の凛がいる前であっても平気で。凛や竜也が私を毛嫌いするようになった大きな要因がそれだ。私は何度も否定したけど、二人は姑の言葉だけ鵜呑みにして、私の言うことはまったく信用してくれなかった。  義父母は私の子育てのやり方のまずさについても、子どもたちの前で延々と説教した。当然のことながら、そんな毎日が何年も続くうちに子どもたちは私を軽んじるようになり、私の言うことを全然聞かなくなった。いや、私の存在自体を無視するようになった。  そのことで、慎司と義父母からまた責められる。結婚十年目に野良の子猫を拾ってきて飼い始めたが、私の味方はそのミケだけだった。味方といっても所詮猫だから私を攻撃しないでくれるだけのことだが、たったそれだけのことでも私には砂漠の中のオアシスのような存在に思えた。  いつしか母親なのにお腹を痛めて産んだ子どもたちを全然かわいいと思えなくなっていることに気づいて、私は自分が異常者なのではないかと恐怖と不安に駆られた。  今、結婚十五年目。私はまだこの修羅の家にいる。勘当されて以来、実の両親や姉との交流も閉ざされたまま。彼らの消息も何も知らない。私は相変わらずただの専業主婦で、私の世界は生き地獄のようなこの家の中だけ。  何かといえば出ていけと言われる。子どもたちにも言われる。こんな地獄から出ていきたいのはやまやまだけど、行く当てなどどこにもないから、彼らの機嫌が直るまで謝りつづける。ときには土下座だってする。  私はすべてをあきらめて、空疎な笑顔を浮かべながらただ惰性でこの家で暮らしている。それは生きているというより、死んでないだけという言い方の方が事実に近そうであるけれども――
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