第七章 十五年目の覚醒

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 自分を籠の中の鳥にたとえたこともあったけど、比べれば籠の中の鳥の方がよほど幸せだろう。だって籠の中の鳥は籠を出れば自由に生きていける。  実の両親に絶縁され友達もいない、お金もスマホもない、もう十五年外で働いたこともない。そんな私が一人で生きていけるほど、外の世界は甘くない。  離婚して結婚相談所に登録して再婚相手を見つけようと考えたこともあったが、慎司は予告した通り私の交際相手の身元を調べ私の行為動画を送りつけるだろう。実際、光留は慎司に動画を見せられたショックで失踪して私の前から消えた。  籠の中の鳥は大空を思う存分に飛び回る夢を見ているかもしれないが、籠の中でしか生きていけない鳥はどうすればいいのだろう? 慎司に捨てられたくなくて、土下座しろと言われたら普通に土下座していた。慎司の浮気相手に呆れられるまで、それがどれだけ屈辱的な行為かということさえ忘れていた。馬鹿にされて這いつくばってへらへら笑い続ける人生の先に、いったいどんな希望があるのか?  怖い。籠の中にいるのも怖い。籠から出るのも怖い。死に逃げるしかないのか? それも怖い。  十一月。テレビからクリスマスソングが流れ出す頃、一人街を歩けばどこまで行っても私は一人ぼっち。気がつけばもう十五年帰っていない実家に吸い寄せられるように歩を進めていた。  バスや電車を使えば歩くより早く着くが、十五年の結婚生活で自分のためにお金を使ってはいけないという考え方が染みついていた。  今さらどの顔して両親と会えばいいのだろう? そもそも彼らは私を許してくれるのか?  実家に近づくにつれて、胸の鼓動も早くなる。会いたい! でも会ってくれるかな?  だけど期待も心配もすべて無駄だった。実家の借家が建っていた場所は更地になっていた。私に知らせずどこかへ引っ越していったらしい。私はその場で泣き崩れた。まだ流す涙が残っていたんだな、とそんなことをぼんやりと思った。
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