第七章 十五年目の覚醒

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 助けて! 誰か助けて!  実家のあった場所まで行ってしまった勢いで、電話ボックスに飛び込んで電話をかけた。独身時代に使っていたスマホは解約されてしまったが、電話帳のデータはノートに控えてあった。電話をかけた相手は姉の舞。私は不倫したことで姉に毛嫌いされていたけど、両親と違って姉には絶縁されていない。  姉の婚約者は後藤という男だった。そのまま結婚していれば、姉の名は後藤舞になっているはず。結婚したことを知らせてこないのだから、姉はまだ私を許す気になれないのだろうか?  繰り返す呼び出し音を聞きながら、たとえ罵倒されることになっても姉と会話したいと願った。でも姉のもしもしという声を聞いた瞬間、罵倒されずに和解したいと心から願った。  「誰ですか?」  公衆電話からかけているから、通話の相手が誰か分からないらしい。  「私です。七海です」  「七海? 生きてたんだ!」  最初の一言から全然歓迎されてないことが分かる。  「死んでた方がよかった?」  「そこまでは言わないけどさ……。で、十五年ぶりに電話してきた理由は?」  「話を聞いてほしくて」  「とりあえず言ってみな」  「実は私、結婚してからずっと同居してる義父母からいびられていて、しかも最近夫が浮気してることも分かって、居場所のないこのうちから逃げ出せるなら逃げ出したくて、こんなこと頼める立場じゃないのは分かってるけど、お父さんお母さんお姉ちゃんに力になってほしくて電話しました」  「ふうん、嫁いびりに浮気ね。でも七海、子どもがいるんじゃないの?」  「二人います」  「だよね」  しばしの沈黙ののち、姉は励ますような優しい口調で言った。
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