第七章 十五年目の覚醒

6/11
前へ
/92ページ
次へ
 「不倫したあなたが不倫されるのは因果応報だなんて思わない。長く生活してると夫婦にはそういうときもあるんじゃないかしら? いじめられるのも浮気されるのもつらいよね。でもあなたは女である前に妻であり母親なの。かわいい子どもたちのためにも広い心で夫や義両親を許して、家族関係を再構築するのが一番いいって人生の先輩としてあたしは思うよ」  かつて私の不倫を知って汚らしいとか地獄に落ちろとか罵倒した姉だから、夫の浮気を一緒になって非難してくれるんじゃないかと期待していた。私の過去を責められたり罵倒されたりしなかったのはよかったけど、まさか夫や義父母のやったことを許せと忠告されるとは思わず、私の心はひどく混乱した。  「お姉ちゃん、アドバイスありがとう。もう一度しっかり考えてみる」  「うん。あなたも過去にいろいろあったけど、たった一人の妹だからね、あたしは姉としてあなたの幸せをずっと祈ってた。また電話して。お父さんとお母さんにも七海から電話があったことは伝えとくよ」  「さっき実家に行ったら更地になっててびっくりした。よかった。お姉ちゃん、お父さんたちの居場所知ってるんだね」  「知ってるも何も、あたしたち夫婦と同居してるんだよ。七海を許してあげてってあたしからも頼んであげる。だからあなたも旦那さんたちを許してあげなさいね」  「ありがとう……」  それから二つ三つやり取りして電話を切った。姉は家族なのだから夫たちを許してあげなさいと言うだけで、逃げてきなさいとは結局言ってくれなかった。でも姉はそれが私のためだと思ってそう言ってくれたわけだ。第三者から見ればきっとそれが正しい答えなのだろう。  私一人我慢すれば丸く収まるのなら――  肩を落として家路についたけど、途中で足がすくんでまた違う方向に歩を進めた。ただしそこには一度しか行ったことがない。しかも十五年も前にたった一度だけ。彼女の助けを期待することは絶縁された両親の助けを期待することよりありえないことなのは分かっている。でもそのときの私はどんなわらでもつかまずにいられないほど追いつめられていた。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

518人が本棚に入れています
本棚に追加