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17 バーベキューをするらしい
「と言うわけで、買い出しは押鴨と渡瀬、榎井の三人で頼むぞ」
「解りましたー」
寮長の藤宮が資料を渡しながらそう告げた。横で雛森がチェックリストにチェックを入れていく。週末に行われる、バーベキューの準備のため、こうして打ち合わせを行っているのだ。共有スペースに集まったのは七人ほどで、さほど広くない場所なのでやや窮屈だ。身体の大きい良輔や星嶋などは、身体を縮ませていた。
「倉庫からテーブルと機材を出すのは、星嶋と鮎川、高橋B担当で」
「了解」
仕事をテキパキと振って、藤宮がコピーした紙を配っていく。買い物リストやら、準備に必要なものを纏めたらしい。ちなみに高橋は二人いるので、A・Bで呼ばれている。小柄な方がA、デカイ方がBだ。
「買い出し、ぺリアで良いよな? 俺、車出すわ」
当日は社用車を使わせて貰うよう申請しておこう。駅前のぺリアなら、大体のものが揃うはずだ。
「紙コップと皿はドラッグストアの方が安いかも知れんぞ」
榎井の言葉に、「確かに」と頷く。駅前通りにドラッグストアも有ったはずだ。酒ももしかしたらそっちが安いかもしれない。
「それなら、先にドラッグストア行ってからの方が良いかもな」
「これ、リストに割り箸入ってないな」
「どれ?」
良輔が指差すのに、リストを確認する。確かに、漏れている。
「もう一回、リスト確認しようぜ」
「だな」
赤ペンでリストに割り箸を追加し、三人で内容を確認する。
「氷、こんなに必要か?」
「ビールには入れないしな。まあ、多いくらいでも良いだろうけど。余ったら寮の冷蔵庫に突っ込んで置けば」
「クーラーボックス欲しいな。確か倉庫にあったよな?」
「この後、確認しよう」
ソファーに座ってあれこれと確認していた俺たちに、藤宮が覗き込んでくる。
「おー。お前らしっかりしてるから、助かるよ」
「藤宮先輩、何担当するんです?」
「焼きそば。作る方」
「そりゃ楽しみだ」
社交辞令を言いつつ、声をかけてきた目的を促す。
「ところで、何かあります?」
「ああ。301号に入居するから。榎井、仲良くな」
「え」
301号といえば、榎井の隣である。榎井の部屋は302号室だ。星嶋とも同じフロアである。
一月ほど空いていたのだが、新しい人員が入ってくるらしい。
「珍しいタイミングですね」
良輔が首を傾げる。異動のある時期に入れ替りが多いものだ。前の住人は結婚して退寮していった。ここを出る奴は大抵、同棲か結婚だ。あるいは転勤。
「何だか、アパートが取り壊しだそうだ。一時的かもしれないが。この時期だから近隣のアパートも開いてなかったらしくてな、それで声を掛けたんだ。お前らも知ってるヤツだよ。隠岐聡だ」
「ゲッ」
榎井が顔をしかめた。
隠岐聡は、俺たち四人と同じ同期の男だ。パリピ、陽キャという風情の男で、榎井とは本質的に合わないらしい。合わないのに榎井と同じ設計部署なので、余程、縁があるのだろう。諦めろ。
「同期が増えるなら、仲間に入れないとなあ」
「そうだな。仲間外れはちょっと」
「渡瀬、押鴨。お前ら俺がアイツ苦手なの知ってて……」
榎井は心底、嫌そうだ。この世の終わりみたいな顔をしている。
「まあまあ。俺だってアイツは嫌いよ?」
「そうだったの? 渡瀬」
「だってアイツ、顔は可愛いじゃん。顔が良いヤツ嫌いなんだよ」
「お前……」
良輔が呆れた顔をする。
「え、じゃあ俺、嫌われてたか?」
「真顔で何言ってんだ。メガネ。お前の本体メガネだろ」
本気なのかネタなのか解らないが、少なくとも俺は榎井の素顔を見たことがない。見なくて良いけど。
「渡瀬だって可愛いだろ……」
「良輔、目が悪かったんだな」
「黙れよメガネ?」
せっかく良輔が可愛いと言ってくれいているのに。良輔の場合は社交辞令ではなく、マジなのだろう。良いヤツだ。
「まあ、マジの話、一回くらいは誘わないとまずいだろ。向こうが参加するかは知らないけど」
「ウググググ……」
榎井はまだ気に入らない様子だったが、言っていることは理解しているようで、それ以上は何も言わなかった。
「取り敢えず、まずはバーベキューだろ」
「そうだな。榎井は動画ばっかり観て寝坊するなよ」
「へい」
やる気の無さそうな榎井返事に、俺と良輔は顔を見合わせて肩を竦めた。
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