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34 良輔で良かった。
「おお? 結構良いかも?」
鏡の前で頬に手を当て、思わずそう口にする。隠岐に教えて貰った化粧水と乳液を試して一週間。なんだか肌がモチモチしてきた気がする。
(しかも、なんとなくキメが整って来たような)
肌の調子が良いと気分が良い。お手入れが楽しくなる。
「えー。化粧水と乳液でこの効果とは。美容液も欲しくなるなあ」
脳内でサイトに書かれていた美容液の金額を思い出し、「うむむ」と唸る。安くない金額の美容液は、買えないこともないが買うには勇気が入る、絶妙な金額をしていた。
(どうしようかなー。買っちゃう? いや、でも……)
ううむ。肌に合うか解らないものにこの金額。悩む。だけど化粧水も乳液も良かったし、肌にあった。
(モチモチ肌で告白するんじゃなかったのか?)
今の状態も大分良い気はするのだが。迷う。迷うぞ。
頭を悩ませたまま、俺はベッドに寝転んだ。
◆ ◆ ◆
「なんか、可愛くなった?」
とは良輔の言葉で、俺は内心ガッツポーズする。
日頃の努力!
毎日のスキンケアが報われたようで嬉しい。しかも気づいてくれるとは。
「なんだよ。前は可愛くなかったのか?」
わざとそう言うと、良輔はあわてて否定する。
「まさか。いつも可愛いけど。今日は特に可愛く見える」
さらりと言ってしまう良輔に、こっちが恥ずかしくなる。しかも公共の場だって言うのに。
今日は良輔と買い物デートである。冬用の新しいセーターを買いに来たのだ。良輔のセーターを俺が選び、俺のセーターを良輔が選ぶという恥ずかしいイベントをこなして、最近出来たと言うカフェにやって来た。良輔がサーモンとアボカドのパンケーキで、俺がテナガエビのトマトクリームパスタである。オシャレで少し可愛らしい、デートっぽいメニューだ。
それを互いにシェアしながらである。本当にデートらしい。
「本当だからってあんまり言うなよ。恥ずかしい」
「恥ずかしがってる姿も可愛いんだ」
「っ、ばか」
もしかして、口説かれてんのかな。俺を見る良輔の目は、すごく優しい。
「もう少し寒くなったら、渡瀬が選んだセーター着られるな」
「そうだな。ちょっと楽しみ」
「俺は服とか、無頓着だったんだけどさ。渡瀬との買い物は楽しいな」
「そっ、そっか」
カァと顔が熱くなる。確かに、良輔は持っている服は殆どグレーと黒で、夏ならTシャツ、冬ならトレーナーといった具合だった。オシャレな格好とは程遠い、かなりカジュアルな服装である。勿論、そんな格好も似合うと思うのだが、最近は少しオシャレなカットソーとかジャケットを着ることがあって、そう言うのが全部俺とのデートのためだと思うと、気恥ずかしくあり、嬉しくもある。
(はぁ、良輔のヤツ。何回俺に惚れさせるんだ)
逢うたび好きになるし、毎日好きになる。声も、表情も、仕草も。全部好きだ。
俺は穏やかな表情で居る良輔を、チラリと見る。
俺は今日、告白する。今日は寮に戻ったら、部屋で飲もうと言っているから、その時に告白するつもりだ。化粧を落として、素っぴんで、向き合うつもりだ。
少し怖いけど、良輔の優しさが、大丈夫だと背中を押してくれている。何より、もう付き合ってるんだ。断られたりしないだろう。
(良輔は、なんて思うかな……)
俺の告白に、驚くかな。喜ぶかな。
『えっ。あ、そ、そうなんだ。……俺も、好きだよ。お前のこと』
妄想して、顔が熱くなる。
良輔も好きになってるかもしれない。こんなに、俺と一緒に居て、嬉しそうなんだし、可愛いと言ってくれる。嫌いなはずないし、多分、好き。
(嬉しいと、思ってくれたら――良いな)
幸せな時間を、ずっとずっと、二人で。
ささやかな、俺の。
新しい、夢だ。
こんな風になるなんて、想像して居なかった。
(裏アカがバレたのが、良輔で良かった)
振り返れば、危ないことをしていたと思う。今の俺は、もう良輔意外と寝たいと思わない。
良輔で、良かった。
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