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それから三日が経ったけれど、夏目が大学に来る事はなかった。
大学に来ない夏目と、死んだような顔をしている俺を見て、周りは悟り何も言っては来ない。
明日は日曜日、互いに土曜日も授業があって、俺は夏目より一限多かったから、その間、いつも図書館で待っていてくれた。
『お待たせ』
図書館だから小さな声で夏目の耳元で囁くと、驚いて恥ずかしそうな笑顔で俺に振り向いた。その後は近くのお洒落なカフェに寄って、明日の日曜日はどうする?と二人で話した。
『観たい映画がある』
『ここのスイーツが美味しそうだ』
『鎌倉に行こうぜ』
いつも俺が提案する事に笑って頷いた。
『お前は?お前の行きたいトコに行こう』
望みを言わない夏目に俺が言うと
『久喜が楽しそうだと俺も途轍もなく楽しい』
久喜が観たい映画、食べたいスイーツ、行きたい場所、全部俺の喜びに、幸せになると、夏目はあどけない笑顔を見せた。
ハラハラする映画を観たら『今でも心臓がバクバクして止まらない!』と目を輝かせ、感動する映画では俺よりも号泣した。『美味しい!』俺が食べたかったスイーツには目を真ん丸くさせ、行ったことのない場所では感嘆しきりで真面目な中学生を引率している教師の気分になった。
俺にしか見せない夏目が愛おしい。
図書館でいつも夏目が座っていた席の隣りに座り、そこにいない夏目を想った。
夏目からの連絡は何も無い。
俺を愛していると言った想いは、夏目の一時の気の迷いだったのかと、そう思って胸が酷く痛む。
しゃーねぇ、女と遊ぶか。
勝手に涙が頬を伝った。
女と遊べれば気が楽にもなったかも知れないし、それに越した事は無かっただろうと思う。
でも、そんな気にもなれなくて俺は結局、一日中部屋に篭った。
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