恋人になれると思ったのに…

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暇になってしまった、夏目の家に行く筈だった日。家に居てもろくな事を考えないから、街に出て気分転換をしようとぷらぷらと歩く。ショーウィンドウに映る自分の髪が伸びている事に気付いて、美容院に行こうと思い立つ。 今から行ける近くの美容院を検索して、予約を入れると直ぐに向かった。 「ツーブロックでトップは長めにしてサイドと後ろの刈り上げ部分は5ミリ位で… 」 いつもの様に頼むと、男性美容師がニヤっと笑って 「えっと久喜くん?モテるでしょう?」 初来店で書いたお客様カードみたいな紙を見ながら、俺の名前を気さくに呼んだ。 「んな事ないっすよ」 「カッコいいもん、ほら、他のお客様も見てるでしょ?」 鏡越しに俺を見ている女性に気付く。そうだ、俺、めっちゃモテてたじゃん。夏目に夢中になってて忘れてたわ。 「モデルさん?」 「まさか」 「それくらいにカッコいい」 にこにこと美容師が微笑み目茶苦茶に称賛するので気分が良くなる。夏目はかっこいいと言うより綺麗、だな、とまた夏目を思い出して軽くため息を吐いた。何故だかこの時、美容師の動きに興味を引かれた。『美容師』か、ちょっと面白そうだなと思って見入る。でも今更な、大学行ってんのになと思う。 「大学生?」 この店に来たのは初めてで、当然この美容師とも初対面だが職業柄かフランクに話し掛けてくる。 「はい」 「自分もね、大学行ってたんですよ」 「そうなん、すか?」 「大学行きながら、美容専門学校も通って美容師になったんですよ」 って、これ、運命の会話じゃね?と思える様なトーク内容に驚く。でもな、俺は頑張り屋じゃ無いからそんなの無理だな。とサラッと流して聞いていた。 「何やっても続かなかったんですけど自分、美容専門学校は続きましたね〜」 「…… 」 誰か俺の心の中読めるの?そう思って少しキョロキョロした。 「面白いっすか?美容師さん」 「自分はね」 と言ってその美容師は笑った。 楽しそうで、カットして貰ってるこっちまで心が弾んできて、ちょっと心が動いた。 「有難うございました。良かったらまたご来店お待ちしています」 そう言われて渡された名刺を財布に入れた。 髪もさっぱりとして気分転換が出来たし、夏目の事も許してやろうと思い始めて足取りも軽やかになっていたその時、俺の目にとんでもない光景が飛び込んできた。 夏目、横にいる男、誰だよ。
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